[ベルリン 10日 ロイター] - 金融などの分野で革命を起こしてきたブロックチェーン技術は、旅行業界も大きく揺るがす力を秘めている。大手の航空会社やホテル運営会社などが、エクスペディア・グループ(EXPE.O)やアマデウス(AMA.MC)などの仲介業者抜きで事業を展開したり、顧客情報をより適切に入手できる手段が得られるからだ。
ルフトハンザ(LHAG.DE)やシティズンMホテルズといった旅行業界大手は新興企業と組み、大口法人顧客に対してブロックチェーンを使って仲介業者を通さずに団体予約をしてもらえないかという話を持ちかけている。
ブロックチェーンはデータが一元的に管理されるのではなく分散型台帳として開放されるため、旅行提供会社と顧客を直接結び付ける新たなプラットフォームを構築する機会が提供される。
ルフトハンザ・グループ・ハブ・エアラインズのディストリビューション部門を率いるザビエル・ラガルデール氏はロイターに「分散化され、設計によって仲介業者を排除できるというブロックチェーンの特徴からは、大きな事業機会が見込まれる」と述べた。
こうした旅行業界向けブロックチェーンを手掛ける企業の1つがスイスのワインディング・トゥリーだ。同社はルフトハンザやニュージーランド航空、シティズンMホテルズなどの大手と提携し、個人ではなく法人顧客を対象とするプラットフォームを構築している。
同社のプラットフォームは、航空便や客室に関する情報を統合するシステムに頼らずに、空席や空室の情報を顧客に開示できる仕組みを提供。そのため航空会社やホテルは、システムの利用手数料支払いを回避できる。
こうしたシステムは現在、旅行代理店や法人顧客にグローバル・ディストリビューション・システム(GDS)を提供するセイバー(SABR.O)、アマデウス(AMA.MC)、トラベルポート(TVPT.N)のほか、オンライン旅行代理店(OTA)であるブッキング・ホールディングス(BKNG.O)やエクスペディアなどが手掛ける。
ホテルの宿泊予約で仲介業者へ支払われる手数料は最大で宿泊料の25%となる場合もあり、既に手数料の引き下げを巡る攻防が展開中だ。ホテル運営大手マリオット(MAR.O)は今月、エクスペディアを皮切りにOTAへ支払う手数料を引き下げる方針を発表した。
ルフトハンザは2015年にGDS企業を介した予約の手数料を16ユーロとする料金体系を導入。ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)などの親会社であるIAG(ICAG.L)とエールフランスKLM(AIRF.PA)もGDS企業との契約を再交渉している。
ワインディング・トゥリーのマクシム・イズマイロフ最高経営責任者(CEO)は、仲介業者は新たな技術を踏まえて、手数料体系を見直すなどビジネスモデルを修正しなければならなくなると指摘。OTA各社は手数料率を現在の20─25%前後から5%程度に引き下げざるを得なくなる可能性があるとの見方を示した。
これに対しGDS企業各社は、ブロックチェーン技術では提供できないサービスやリアルタイムの価格設定の仕組みを提供していると強気の姿勢を崩していない。
セイバーのディレクター、フィリップ・リケンズ氏は、複数の情報源を統合して予約を可能にする仕組みは、ブロックチェーンでは実現できないと主張した。
またトラベルポートのバイスプレジデント、トニー・ハード氏は、ブロックチェーンを使った取引は従来の手法ほど短時間で終わらないと指摘。「取引が確定するのに10分も待たなければならないのなら、リアルタイムの環境とはなり得ない」と疑問を呈する。
一方、旅行関係の情報技術を手掛ける企業は、新たなサービスにブロックチェーンをどう活用するか試行錯誤が続く。
航空輸送関連の情報技術企業SITAは、ヒースロー空港やIAGと組み、運航情報の共有にブロックチェーンを活用できるかどうかを検証している。
SITAの首席エンジニア、ケビン・オサリバン氏は、それぞれの空港や航空会社が独自に運航データベースを保有している現状では、正確な運航状況を把握するのが難しいが、各空港と航空会社が自社のデータをブロックチェーンに反映させてデータを共有できれば、問題が解決されると説明した。
またアマデウス・イノベーション・パートナーシップの責任者サラ・パバーヌ氏は、手荷物の追跡やロイヤルティプログラム、旅客の本人確認、国境をまたがる料金の支払いなどでブロックチェーンが役立つ可能性があると話した。
国際航空運送協会(IATA)は航空会社と旅行代理店間の決済システムにブロックチェーンを使う試験を進めている。この場合の費用は、ペイパル(PYPL.O)などが提供する決済システムよりも低く抑えられる可能性があるという。
(Victoria Bryan記者)