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日銀が追加緩和、ETF増額:識者はこうみる

[東京 29日 ロイター] - 日銀は29日まで開いた金融政策決定会合で、英国の欧州連合(EU)離脱問題などで国際金融市場で不安定な動きが続いているのを受け、予防的に追加緩和を決定した。市場関係者のコメントは以下の通り。

 7月29日、日銀の追加緩和発表直後に株安と円高が進んだ。写真は都内で3月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

<ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 上野剛志氏>

会見では「総括的な検証」への関心の高さがうかがえたが、総裁の発言による相場に対するヒントには乏しい内容だった。

市場は追加緩和の思惑を読み取っており、目先のドル/円相場でも下支えになりそうだ。先行きの金融市場の不確実性が高いなかで、総裁は否定したものの、結果的に日銀は時間的な猶予を得た。今回の追加緩和策としては、上場投資信託(ETF)買い入れ額の増額のみの「小出し」となった。最小限の玉で時間を買ったといえそうだ。

今後、9月にかけて市場が崩れたとしても、相場を支える追加緩和の余地を残した。市場が落ち着き、米国の利上げの思惑が強まってドル高になるなら、追加緩和も必要なくなる。

<いちよしアセットマネジメント 執行役員 秋野充成氏>

ポイントは日銀が次回の金融政策決定会合でこれまでの政策の効果について検証を行うことだ。検証を受けて、これ以上の緩和に意味がなく出口戦略に向かうのか、またはより強力な追加緩和に踏み込むかの2つに分かれるだろうが、黒田総裁の会見を聞く限り、一段の追加緩和を行うための検証だと判断せざるを得ない。その場合、より強力な政策となればヘリコプターマネーしかない。黒田総裁は会見でヘリマネを否定していたが、日銀が緩和政策を進めている時に、政府が追加的な財政出動を行うのはポリシーミックスで、より効果があると言及した。これは実質的なヘリマネと捉えられ、株式市場では引き続き政策期待が支える構図が続くだろう。

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

日銀の追加緩和の内容については小出し。ETFと成長支援ドル供給枠の増額に留まった。また、今後の追加緩和への期待感も同時に消失した。

市場では、失望感から円買いと株売りが進んだ。

目先のドルの下値目途は100―105円のレンジの中心である102.50円付近とみている。同水準を割り込んでドル安が進行した場合には、次の下値目途は100円ちょうどとなる。

日銀がきょう公表した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)では、17年度、18年度の物価見通しの変更がなく、日銀自身が金融政策の効果に重きを置いていないと判断することができる。

<SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>

日銀の追加緩和策は3次元で実施されるか、もしくは実施されない可能性も考えていたが、ETF(上場投資信託)買い入れの増額のみというのは、なぜなのかという説明が難しいという印象を受けた。

マイナス金利には副作用があり、量にはある程度限界があることを踏まえて3次元の緩和策を実施しなかったという意味合いでは間違ってはいないが、経済・物価見通しと合わせても、なぜETFだけなのかという納得のいく説明を総裁会見では期待したいところだ。

マーケットでは、ETFだけという選択肢を考えていた市場参加者はいなかったのではないか。

<大和証券・日本株上席ストラテジスト 高橋卓也氏>  

少なくとも日銀側の回答に満足して、日本株が大きく上がっているということではない。マイナス金利の深掘りをやらなかったという意味ではプラスであるにせよ、事前には国債買い入れ増額への期待感があった。

政府の経済対策と協調する形で量的緩和を行うことで、疑似的な「ヘリコプター・マネー」をやるイメージも市場にはあった。結局そういうわけではなく、金融政策の限界を感じさせている印象がある。

為替は円高方向に進んでいるが、株式市場の受け止めは比較的マイルドだ。ETF(上場投信)の買い入れ増額は、日本株にとっては下支え効果はある。悪い話ではないが、円高のままなら日本株が大きく上昇することは見込みにくい。

また、次回の会合において、これまでの金融政策の効果を検証する方針を示している。そのタイミングで、マイナス金利の拡大という方向性が再び意識されれば、日本株にとってはネガティブだ。

<第一生命経済研究所主任エコノミスト 藤代宏一氏>

日銀の追加緩和策に国債買い入れ増額やマイナス金利幅拡大が盛り込まれなかったことで、市場は金融政策の限界を意識したようだが、実際にはそれほど違和感がない。むしろ現状に即したタイムリーな政策だとみている。

追加緩和がETF(上場投資信託)買い入れ増額にとどまったのは、日銀が金利の下押しに効果がないという考えに変わったことを意味している可能性がある。少なくとも株式市場にとっては、金融株を中心にポジティブな内容だ。為替はいったん円高に振れているが、株価が落ち着いてくれば、先行きリスクオンの円安を招くことも予想される。今後の緩和策としては新興国を含めた外債購入なども考えられるとみている。

<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>

「限りなく現状維持に近い追加緩和」という印象。現行の金融緩和パッケージを強化するとして、技術的に「量」は難しく、金融システム的に「マイナス金利」も難しい。

ただ、政治的に無回答とするのは困難ゆえに「質」を取りに行かざるを得なかった、ということだろう。金融政策の限界を露呈したという意味では、現状維持だった時よりも失望という見方もできる。

ドル/円は、引き続き米国の通貨政策に沿って動く局面が続くだろう。新しい大統領が、クリントン氏、トランプ氏のどちらになろうとも、ドル高を容認してくれそうもないことは明らかであり、いずれ米連邦準備理事会(FRB)の金融政策もそれに収れんされると予想する。

そもそも景気拡大局面が史上4番目の長さに差し掛かる中で、効果発現にタイムラグがある利上げを(FRBが)連発することは危う過ぎる。世界経済の停滞が懸念される状況で、世界の資本コストを規定する米金利の引き上げが、ポジティブな影響をもたらすはずがない。

今後1年も過去1年と同様、基軸通貨の意向に沿ってドル安・円高相場が展開されると思われ、遠くない将来に90円台定着となるだろう。

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>

ゼロ回答以上・満額回答未満だったことで、心配していたほど円高にならなかったが、期待していたほど円安にもならなかった。市場は軽く失望したものの、ホッとした部分もありそうだ。ゼロ回答だったら、悲惨な展開も懸念されていただけに、この程度の円高にとどまったということで安心した人もいるだろう。

黒田東彦総裁の会見を待つ必要があるが、総括的な点検を指示するなど、打ち止め感が出にくい配慮もなされている。米大統領選挙の討論会は秋口のため、市場が本格的に織り込んでいくにはまだ距離がある。来月は日米で中銀会合の予定がない。市場は腰を落ち着けて米経済のファンダメンタルズを見極めようとする地合いになりやすい。

ひとまず100円割れは避けられた。ただ、トレンドとしてのドル安/円高は続いている。年末年始ごろにかけて、あらためて100円を試す展開はありえる。今回の緩和策で、強烈な円安も期待できそうにない。上方向では国内輸出企業のドル売り/円買いも想定され、じわじわと下方圧力が出てくる展開が予想される。

<SBI証券・チーフ債券ストラテジスト 道家映二氏>

日銀は、追加緩和策を打ち出し、ETF買い入れの増額を決定した。保有残高の年間増加ベースを約6兆円と、現行の約3.3兆円からほぼ倍増にした。先進国を見わたしても、中央銀行が株式の買い入れを実施しているのは日銀だけ。株価の相場操縦と受け取られるリスクがある。

一方で、国債買い入れ増とマイナス金利の深堀りを見送った。緩和に向けた準備時間が足りなかったかもしれないが、次回の会合で、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の包括的な検証を議長が指示したとされる。「量」と「金利」を軸にした現行の緩和政策の限界を意識せざるを得ない。

日銀の決定を受けて、債券は急落し、株価も下落した。来週以降の金融市場は、中央銀行の信認低下リスクを念頭に置きながら、相場のボラティリティが高まる可能性も否定できない。

*内容を追加しました。

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