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物価1%目指し相次ぐ基金増額、市場や政治とは距離=12年上半期・日銀議事録

[東京 29日 ロイター] - 日銀が29日に公表した2012年上半期の金融政策決定会合の議事録からは、デフレ脱却に向け、物価安定の「目途」を1%と定めて資産買い入れ基金の増額を重ねる一方で、マーケットの期待や政界の批判になびくことを嫌う「白川日銀」の姿が浮き彫りになった。株高・円安の継続を狙って、3月会合では2月に続いて基金増額を求める委員が出たが、白川方明総裁は強く反発して2カ月連続の増額を見送った。(肩書きは当時)

7月29日、 日銀が公表した2012年上半期の金融政策決定会合の議事録からは、デフレ脱却に向け、物価安定の「目途」を1%と定めて資産買い入れ基金の増額を重ねる一方で、マーケットの期待や政界の批判になびくことを嫌う「白川日銀」の姿が浮き彫りになった。写真は東京で2010年4月に撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

<物価安定の「理解」から「目途」へ>

2012年初め、日本経済は欧州債務危機と長引く円高のもとで下振れ懸念が指摘されていた。11年10―12月期の実質国内総生産(GDP)1次速報は前期比年率マイナス2.3%となり、2四半期ぶりのマイナス成長となっていた。消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の対前年比はゼロ%付近で推移。野田佳彦首相はデフレ脱却を掲げ、日銀と一体で取り組む姿勢を強調したが、「長引く円高とデフレの責任は日銀にある」(当時の野党議員)として、野党の批判の矛先は日銀に向かっていた。

1月、米連邦準備理事会(FRB)が2%のインフレ目標を導入。米国の金融政策が歴史的な転換点を迎える中、日銀も2月の金融政策決定会合で「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度」としてきた「中長期的な物価安定の理解」の見直しに取り組んだ。

山口広秀副総裁は「先月のFRBの決定をきっかけに、FRBとの比較に立って、われわれの政策運営は分かりにくいとの批判が相次いでいる」と指摘。これまでの物価安定の理解は「あくまでも『理解』であって、われわれの政策が目指している方向を示す表現になっていない」と述べた。

見直しのポイントは「理解」に代わる名称、目指す物価水準、コミットメントの明確化の3つ。山口副総裁は「理解」に代わる表現として「目標」、「目途」、「目安」を挙げた。その上で、内外経済の不確実性がある中で「固定的ないし硬直的な印象を与えがちな『目標』という言葉はできれば避けたい」と発言。「目安」も「あまりにふわっとして曖昧な印象」だと指摘した。他の委員から目立った反対はなく、「目途」が新たな名称になった。

目指すべき物価上昇率を巡っては、決定会合前の国会で、FRBの2%目標に対して日銀が物価安定の理解で示している数字が「1%程度」になっていることで「日本がデフレでいいと言っているようなものだ」(公明党・魚住裕一郎参院議員、12年2月7日の参院予算委員会での発言)との批判が高まっていた。

しかし、日銀は物価の目途を2%とすることはなかった。白井さゆり委員は「中長期的な物価安定の目安として、米国の2%と同様にすべきとの意見も聞かれるが、日本が他の主要国と異なる経済状況に直面している点が忘れられているのではないか」と指摘。日本の潜在成長率の低さや低い物価観を挙げて「現在でもインフレ率が2%台半ばもある米国のように、長期物価安定の目安をいきなり2%に置くというのは、やや実現性を欠いた議論のように思う」とした。

2月14日、決定会合後の記者会見で白川総裁は「海外が2%だから日本も2%だと出した場合、それは現実の日本経済の特徴あるいはそのもとで形成された家計や企業の意識から離れていくことになる」と指摘。「国民の物価観から離れ、一気にこれまでに経験したことのない数字を出した場合、家計や企業がかえって大きな不確実性に直面する可能性があるほか、長期金利の上昇を招く恐れがある」と説明した。

こうした議論のもと、日銀は「中長期的な物価安定の目途」として「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域、当面は1%を目途」と規定。「当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで」強力に金融緩和を推進していくとした。

さらに、デフレ脱却への強い意志を示すため、「資産買入等の基金」の10兆円増額を決めた。中村清次委員は「『物価の安定』に関する枠組みを見直す機会に併せて金融緩和策を打ち出すことは、日銀のデフレ脱却と物価安定に対する強い取り組み姿勢への理解を深めることにもつながる」と述べた。

<追加緩和巡り宮尾委員と白川総裁が激論>

2月決定会合で物価安定の目途を示し、併せて基金増額を打ち出したことで、為替市場では円高修正が進み、77円付近で推移していたドル/円は3月の決定会合が始まった3月12日には82円台まで回復。委員から安堵の声が上がった。

白川総裁は「従前から、デフレ脱却に向けて全力を尽くしていくということは繰り返し申し上げていたが、その姿勢についてもし疑念があったとすれば、前回の措置はそれをある程度改善する効果があった」と述べた。

3月会合では、前回決めた基金増額の効果を見極めるべきだとの声が相次ぐ中、宮尾龍蔵委員は再度、基金を増額すべきだと主張した。

宮尾委員は2月会合以降の株高・円安の流れを持続させることができれば、期待インフレへの働きかけなどを通じて「経済・物価の回復経路を引き上げることが可能になる」と主張。「積極的、能動的な緩和姿勢をさらに強化して、例えば必要であれば追加措置も果断に実施して、持続的成長への回復経路を後押ししていくことは極めて重要であり、かつ必要なことだ」と述べた。

宮尾委員は、会合後の声明文に「必要と判断される場合には、追加的な措置も果断に行っていく」といった文言を盛り込むことも求めた。こうした文言を追加すれば「追加措置は今後どのタイミングで実施されても不思議ではないといった予想に働きかけることができる」と語った。

しかし、宮尾委員の主張に白川総裁は真っ向から反論した。2月会合で示した方針で「日本銀行の基本的な構えは非常にはっきりしているように思う。宮尾委員がおっしゃった点について追加的に議論する必要が本当にあるのだろうか」と疑問を呈した。

さらに「期待に働きかけるというのは非常にファジーな言葉だ。最終的には、われわれ自身が何かこういうことをやって、それは具体的にこういう形で影響があるというものと結び付いていないと、全て期待に働きかけることになる」とし「マーケットがどうみているかに判断軸を置くことは、中央銀行としてはある種の自殺行為だ」と語気を強めた。

結局、宮尾委員に賛同する委員はなく、宮尾委員の基金増額提案は反対多数で否決。文言の追加も実現しなかった。白熱した議論の結果、3月13日の決定会合の終了時刻は午後2時02分までずれ込んだ。

<相次ぐ基金増額、そして物価「目標」へ>

4月、中村清次委員、亀崎英敏委員が任期満了で退任したが、衆院と参院で与野党の勢力が逆転する「ねじれ現象」の下で後任人事が決まらず、4月から7月までの決定会合は2人欠員のまま、ボードメンバー7人で開催された。

日銀は4月27日の決定会合で再び基金の増額を決めた。白川総裁は、日本経済は物価安定のもとでの持続的成長経路に復する蓋然性が高いと考えられるものの「今のこのモメンタムを大事にして、ここで金融緩和の一段の強化を行うことによって、これまでの措置の累積的な効果と併せて、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復することがさらに確実なものとなることが期待できる」と説明した。

その一方で、基金の増額が頻繁になっていることに触れ「金融政策の効果波及には長いラグがある。他方、経済に前向きのモメンタムが働き始めている」として「金融政策の効果を冷静にじっくりと見極める段階に入ってきている」とも述べた。

しかし、2月以降に外為市場で見られた円高修正の動きは息切れし始め、ドル/円は再び80円を割り込んだ。コアCPIは浮揚せず、1%の達成時期が見通せない中、海外経済の減速などで日銀は9月、10月と2カ月連続で基金の増額を決定していく。

12月の衆院選では、安倍晋三氏率いる自民党が大勝して政権交代が実現。物価「目標」という表現も、まして2%という数値にも否定的だった白川総裁の下、物価目標2%を求める安倍首相の主張に沿う形で13年1月、日銀は政府との共同声明を発表。日銀が目指す「物価安定目標」は「消費者物価の前年比上昇率で2%」と明記した。黒田東彦氏が日銀総裁に就き、デフレ脱却を目指して異次元の金融緩和を始めるのは13年4月のことだ。

(和田崇彦 編集:石田仁志)

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