February 23, 2018 / 1:45 AM / 4 months ago

アングル:日銀の「物価の眼鏡」に歪み、国民の暮らし向きは悪化

[東京 23日 ロイター] - 国民が日々の生活のなかで物価上昇を実感する一方で、日銀の「物価の眼鏡」で見た世界ではインフレが沈静化している。このため、今年も異次元緩和が継続される見込みが高いが、物価の眼鏡を取り換えれば、リアルなインフレの姿が見えてくる。

 2月23日、国民が日々の生活のなかで物価上昇を実感する一方で、日銀の「物価の眼鏡」で見た世界ではインフレが沈静化しているが、物価の眼鏡を取り換えれば、リアルなインフレの姿が見えてくる。写真は八百屋で買物をする女性。2016年1月に東京で撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)

<日銀の「コア眼鏡」と国民の実感にズレ>

総務省がきょう公表した1月の全国消費者物価指数(CPI)では、日銀がインフレ判断のベンチマークとする「生鮮食品を除く総合指数、コアCPI」が前年同月比0.9%上昇。生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は前年同月比0.4%上昇と、引き続き物価が低迷していることを示された。

しかし、日銀がコアCPIという「物価の眼鏡」を外せば、世界は変わってみえる。

国民の生活実感により近いとされ、厚生労働省が実質消費や実質賃金の計算に用いる「持ち家の帰属家賃を除く総合指数」では、全国ベースで1月に前年同月比1.7%の上昇だった。昨年12月は同1.3%上昇、11月は0.7%の上昇だった。

東京都区部の確報値では、1月が前年同月比1.7%上昇と、12月の同1.3%上昇、11月の同0.4%上昇から、こちらも上昇ピッチが速まっている。

持ち家の帰属家賃とは、実際には家賃の受け払いを伴わない住宅等について、通常の借家と同様のサービスが生産・消費されるものとみなして、それを市場価格で評価した帰属計算上の家賃をいう。

寄与度でみると、こうした持ち家世帯の架空家賃が1月の総合指数(前年同月比1.4%上昇)から0.3%ポイントも統計上のインフレを「押し下げ」ていることになる。

日銀がインフレのベンチマークとするコアCPIと、消費者が直面する現実の物価上昇率1.7%の間には、0.8%ポイントもの格差があり、この格差は生鮮食品の大幅な価格上昇と、実体のない持ち家世帯の家賃の下落が統計上、物価を押し下げていることから生じている。

<日銀の生活意識に関するアンケート調査>

日銀と国民の「インフレ感」のズレは、日銀が実施するアンケートでも確認できる。

「日銀のアンケート調査では、国民が既に5%近い物価上昇を感じている。こうした状況にも関わらず、金融緩和が不十分だとして、日銀が大規模緩和を続けるとしたら、物価高による購買力の低下により、国民をさらに苦しめることになりかねない」とグローバル・エコノミスト、斎藤満氏は警鐘を鳴らす。

日銀が20歳以上の個人4000人を対象に実施した「生活意識に関するアンケート調査」(2017年12月調査)によると、1年前に比べ物価は何%程度変化したかについて、回答者の平均値は4.5%上昇と9月調査の4.2%上昇を上回った。

現在の暮らし向きについては「ゆとりがなくなってきた」が12月調査で40.2%と、9月調査の39.2%から増え、その理由(複数回答)のうち、「物価が上がったから」(50.7%)、「給与や事業などの収入が減ったから」(48.5%)が群を抜いて高い。

<それでも異次元緩和か>

2013年4月、日銀は「少々毒はあるかもしれないが、短期間なら問題ない」と割り切ったスタンスで「異次元緩和」を開始した。当時は2年程度でインフレ目標を達成できると信じていたが、現実にはそうならず、達成時期を6回も先送りしている。

「次の5年間も『あとちょっとで2%になる』と言いながら異次元緩和を引っ張り続けたら、長期化による副作用が多方面で噴出してくる恐れがある」と東短リサーチ・代表取締役の加藤出氏はみている。

しかし、安倍政権にとっては、日銀が今の「物価の眼鏡」をかけたまま、インフレ目標を目指して超金融緩和を継続すれば、長期金利が抑えられ、政府は低い資金調達コストを満喫でき、株式も日銀が買い支えてくれるといい事づくめだ。

政府は16日、4月8日で任期満了となる日銀の黒田東彦総裁を再任する人事案を提示。副総裁の一人にリフレ派の若田部昌澄・早稲田大学教授を充てるなど、当面、異次元緩和の出口は封じられた。

さらに、最近の円高や株安のおかげで、市場がかつて予想した「金利目標の微調整」や「上場投資信託(ETF)の減額」は雲散霧消した。

<「スモールチェンジ」というインフレ>

インフレは、別の形でも消費者に迫る。

1月18日放映のNHKクローズアップ現代+では、原料コストの高騰や、世界的な需要の高まりによって食材の奪い合いで苦しむ菓子、缶詰、乳製品などの食品メーカーが、値段を据え置きつつ、容量を少なくする「食品のスモールチェンジ」が紹介された。

「20年間続いたデフレ不況で、モノが安くなるのが当たり前というのが消費者のイメージで、価格の上昇に対して日本人はかなりシビアになっている」(野口智雄・早稲田大学教授)。

食品の小型化・軽量化など「実質値上げ」の一部はCPIに反映されているが、全部ではない。また、スモールチェンジやコストカットは永久に続けられるわけではなく、いずれ、企業は価格を上げなければならなくなるだろう。

森佳子 編集 橋本浩

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