[東京 10日 ロイター] - 政府は10日、日銀新総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めた。政府関係者ら3人が明らかにした。14日に人事案を国会に提示し、衆参両院の同意を得て内閣が正式に任命する。
市場関係者に見方を聞いた。
●じっくりファンダメンタルズ見極めたかじ取りへ
<大和証券 チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>
植田和男氏が日銀新総裁として起用されるとの報道は若干驚きだった。過去に日銀審議委員をやったことがあるので、金融政策の理論も含めて非常に詳しい。氷見野前金融庁長官と日銀の内田理事が副総裁に選ばれたことは、とてもバランスが良く、総裁を支える強力なサポートになるだろう。
市場では雨宮副総裁が本命とみられていたことから、今回の報道を受けて為替市場では円高に振れた。ただ、植田氏は焦って引き締めに動くという印象はない。日銀審議委員時代は金融緩和の部分で能力を発揮された印象であり、学者である上にじっくりとファンダメンタルズを見極めるタイプだ。状況を見極め、ふさわしい状況で引き締めを進めていくのではないか。
今後国会で所信聴取がある。世界経済が減速局面に向かっていくとみられ、状況を見極めながら、慎重な発言を行うのではないか。
●サプライズ、市場は初期反応ではタカ派リスク意識
<大和証券 チーフエコノミスト 末広 徹氏>
次期総裁として事前に名前が挙がっていた日銀プロパーの方たちでなく、植田和男氏というのはサプライズだ。副総裁が日銀理事の内田真一氏と財務省・金融庁系で国際派の氷見野良三氏というのは順当な人選と言える。
植田氏については、学者として日銀に近い方との認識を持っている。その主張については、昨年7月に円安が進行して日銀の金融緩和が批判されていた時に日経新聞のコラムで「拙速な引き締めは避けるべき」との考えを示したこともあり、それほど金融緩和に否定的だとは言い切れない。
一方で、黒田東彦総裁と直近まで金融緩和を一緒に進めてきた関係ではないとの観点からは、黒田氏が行ってきた金融緩和の否定をすることもしやすいと言える。
次期総裁は雨宮正佳氏だとの予想を織り込んでいたマーケットのファーストリアクションとしては、やはりタカ派のリスク、即ち金融正常化のリスクが高まったと捉えるだろう。ただ少なくとも昨年夏の時点では「無理して引き締めをやる必要はない」との見方であったということも踏まえ、市場は徐々に落ち着きを取り戻すとみる。
●4月会合で政策修正の可能性
<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>
日銀新総裁候補として報じられた植田(和男)氏は、アプローチがオーソドックスな印象がある。学術的な裏付けがあれば、新しいことも前向きに検討するだろうし、これまでのクリエイティブな金融緩和に、強く否定的な訳でもないだろう。人選としては極めてニュートラルだとみている。
報道が流れた直後から円高が進行しているが、仮に有力候補だった雨宮(正佳)副総裁の昇格でも、同様のことが起こったのではないか。いずれにせよ、新総裁が担う4月の決定会合で、大規模緩和政策の修正に向けた何らかの措置が取られるとの見方に変わりはない。
●アベノミクスと決別、長期的には日本株にプラス
<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>
元日銀審議委員の植田和男氏が次期総裁の人事に起用されるとの報道は、多くの市場参加者にとってサプライズとなった。金融緩和の正常化を進めてリフレ政策から脱却し、「アベノミクスとの決別」する印象を受けた。
具体的な手段はこれからだが、政府の本気度を感じる。今後は、金融緩和でぬるま湯のような状態になっている足元から、痛みを伴いながらも政策変更をするということではないか。初期反応として為替が円高に振れ、日経平均先物が急落したのは、市場も正常化を意識したからだろう。
ただ、長期的にみれば、日本企業をより筋肉質にさせるという期待感もあり、株式市場にとって悪い話ではない。目先は不安要素もあるが、中長期的には、単なる量的緩和に頼ってばかりいる「温室経済」から脱却できるのではないか、との期待もある。
この点を海外投資家がどう捉えるかが注目されるが、(日銀人事報道が)好感されれば週明けに海外投資家が日本株買いに動く可能性もあるとみている。
仮にこのまま円高が進行した場合は、株式市場にとってネガティブだが、市場の受け止め次第では大きな波乱はないかもしれない。物色動向としては、金融政策正常化の思惑が強まり、金融セクターが買われるのではないか。
副総裁の人事については、非常に強力な布陣という印象を受けた。内田真一・日銀理事は日銀のエースと呼ばれ、実務にも詳しい。氷見野良三・前金融庁長官は海外中銀のトップともコミュニケーションがとれる外交力のある人で、それぞれの役割分担で新総裁を支えていくのだろう。
●植田氏起用はサプライズ、発言見極めへ
<野村証券 チーフ金利ストラテジスト 中島 武信氏>
次期日銀総裁に植田和男氏が起用される見通しとの報道に対し、債券市場は売りで反応しているが、雨宮正佳副総裁以外では、誰でも同じ反応になったのではないか。市場の予想外の人選であり、サプライズだ。
植田氏の、金融政策に関する過去の発言をみると、ややタカ派で、中央銀行はある程度、債券利回りをコントロールできるとの立場のようだ。ただ、昔の発言であり、所信聴取での発言などを確かめる必要がある。
学者であり、金融政策の理論にも詳しいとみられる。すぐに現在の緩和政策を修正するのではなく、徐々に舵を切るのではないかとみている。
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