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焦点:日銀総裁が金融緩和限界論、さらなる利下げけん制の見方も
November 16, 2017 / 9:45 AM / in a month

焦点:日銀総裁が金融緩和限界論、さらなる利下げけん制の見方も

[東京 16日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁が、利下げによる金融緩和が金融機関の収益悪化を通じてかえって金融引き締め効果をもたらすとの議論に言及し、市場関係者の注目を集めている。さらなる追加緩和の効果は限定的として市場をけん制することが狙いとの見方が多いが、将来的な超低金利の調整を見据えた地ならしとの思惑も出ている。

 11月16日、日銀の黒田東彦総裁が、利下げによる金融緩和が金融機関の収益悪化を通じてかえって金融引き締め効果をもたらすとの議論に言及し、市場関係者の注目を集めている。写真はチューリヒで13日撮影(2017年 ロイター/Arnd Wiegmann)

<過度の金利低下、金融仲介機能に悪影響>

黒田総裁が発言したのは13日にスイス・チューリヒ大学で行った講演。過度の金利低下が「預貸金利ざやの縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転する可能性」があるとする「『リバーサル・レート』の議論が注目を集めている」と指摘した。

リバーサル・レートとは米プリンストン大学のブルネルマイアー教授が考案した概念で、金利がある一定水準を下回ると、かえって貸し出しなど金融仲介機能に悪影響を与えるとの議論だ。

同教授が今年4月に公表した論文によると、緩和効果をもたらす下限であるリバーサル・レートは国や経済状況で異なるが、金融緩和の度合いで徐々に切り上がる可能性があるとともに、量的緩和を行っている国では銀行の収益が悪化するため、リバーサル・レートも高めになる、などと指摘している。日米欧が繰り広げてきた大規模量的緩和を「長期化は百害あって一利なし」とする内容で、欧州中央銀行(ECB)が、物価目標に達しない段階で緩和縮小に転じた判断に影響を与えたとされる。

金利の下げ過ぎはむしろ引き締めとし、金融緩和の限界を示した点でインパクトがある。米国などでは、金融緩和の効果が限定的との結論ならば、経済刺激策は公共投資しかない、との議論も一部で見られているようだ。

日銀は昨年9月に大規模金融緩和の主要な目安を従来の「量」から「金利」に切り変え、短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年物国債利回り)をゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を採用した。

経済を加速も減速もさせない中立金利を年限別にならべた「均衡イールドカーブ」という概念を示し、イールドカーブを均衡イールドカーブよりも下に抑制することによって経済・物価の改善局面では緩和効果が一段と強まるとの説明だ。

同時に、マイナス金利政策の導入によって一時、長期金利もマイナス圏に沈むなどイールドカーブのフラット化が過度に進行したとの判断のもと、金融仲介機能への影響にも配慮して現行の長短金利操作目標を設定。リバーサル・レートの要素を実践に反映した枠組みといえる。

<物価目標達成前の金利調整に柔軟姿勢の見方>

それでも黒田総裁があえてリバーサル・レートに言及した背景について、日銀では政策的な含意を否定するが、7月に就任した片岡剛士審議委員はさらなる利下げによる追加緩和を事実上提案しており、執行部として追加緩和観測が市場に織り込まれるのを防ぎたいとの意図も垣間見える。

黒田総裁は講演で「現時点で金融仲介機能は阻害されていない」と強調したが、「低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的」とも指摘した。全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は15日の会見で「現在の超緩和的な金融環境は当分続く」との認識を示し、「現在の極めて緩和的な環境が続けば地域金融機関の基礎体力は徐々に奪われていき、地域における金融仲介機能の維持に深刻な影響が生じる」と懸念を表明。時間の経過とともに、超低金利の副作用が強まることは間違いない。

さらに、足元の日本経済は需給ギャップがプラスに転じ、7四半期連続でプラス成長が続くなど好調だ。消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)も日銀が目標に掲げる2%には依然として遠いものの、ゼロ%台でプラス幅を着実に改善させている。日銀が念頭に置く均衡イールドカーブが徐々に上方にシフトしている可能性も否定できない。

総裁発言について三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は、物価目標に距離がある中で長短金利目標の引き上げは難しいとしながらも、来年の現執行部の任期前に「物価目標の達成前でも、状況によってはイールドカーブ形状の調整はあり得る」との考えを「もう少し明確にすることはあるかもしれない」と述べるとともに、長期金利目標「ゼロ%程度」の暗黙の上限が「切り上がったり、年限毎の国債買入れの調整につながる可能性」を指摘した。

黒田総裁は10月31日の定例会見で「(物価を巡る欧米との)ファンダメンタルズの違いから、日本の長期金利を上昇させる必要はない」と断言する一方、「物価動向が改善するなかで金利をどうするかは、考慮に値する」と述べ、物価上昇ペース次第ではイールドカーブの修正議論が俎上(そじょう)に上る可能性を示唆している。

竹本能文 伊藤純夫 編集:石田仁志

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