January 28, 2020 / 11:56 PM / 25 days ago

09年下期日銀議事録:円高で緩和強化・政権交代で「物価安定の理解」

[東京 29日 ロイター] - 日銀は29日、2009年7─12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。リーマンショック発生から1年、海外景気の復調に合わせて国内景気が回復し、企業の資金繰りも改善。危機対応で始めた社債・CP買い入れオペの終了を決めた。しかし、危機からの「出口戦略」を歩みだした矢先、ドバイショックで円高が進展。臨時会合で追加緩和に踏み切った。一方、民主党政権が進めるデフレ脱却対策に歩調を合わせる形で、日銀は「物価安定の理解」を明確化、マイナスの物価を許容しない姿勢を鮮明にした。ただ、長期国債の大量購入による量的緩和などより強力な緩和策を求める市場との対話に苦悩を深めていく。(肩書きは全て当時)

1月29日、日銀は2009年7─12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。日銀本店で2016年3月撮影(2020年 ロイター/Yuya Shino)

<「国内の金融環境」巡り分裂>

リーマンショック後の各国の対策で回復する海外経済に支えられ、日本の実質国内総生産(GDP)は09年4―6月期から2四半期連続のプラス成長となった。リーマンショックから1年となる09年9月16―17日の金融政策決定会合では、リーマンショック後に企業の資金繰り支援で導入したCP・社債購入を打ち切る検討に着手した。

ただ、「わが国の金融環境」という文言を声明文のリスク要因から外すかを巡り、委員の見解が二分された。

須田美矢子審議委員が、日本の金融システムが落ち着いていることなどを理由に「(国内の)金融環境を独自の下振れリスク要因として入れる必要はないのではないか」と口火を切ると、野田忠男審議委員が唐突だと反発。

野田委員は「国内的な何らかの不確実性が悪い方に顕現化」した場合、銀行の信用コスト増・株安を通じて実体経済にダメージが及ぶ「ネガティブループが生じるリスクというものが本当に解消されているのかという観点からすると、私は必ずしもそうではないとみている」と指摘。日銀短観を見てからの判断でも遅くないと主張した。

須田委員には白川方明総裁も同調。「資金繰り面での不安は、金融機関についてはなくなってきた」と述べた。一方で、西村清彦副総裁や水野温氏審議委員は野田委員を支持し、文言を外すことに慎重姿勢をとった。

山口広秀副総裁が公表文は「できれば意見は割れない方がよい」と促すと、野田委員は「国際的な金融情勢の中に、言ってみれば(国内の金融情勢も)実は包含されているということを丁寧に説明していく」ことを条件に矛を収めた。「百歩ほどは譲らないが、特にぎりぎりの判断として、皆さんが必要な修正と判断されているのならば、その大勢に従うことについて異論ない」と述べた。

国内金融環境の復調に自信を強めた日銀は、10月30日の決定会合で危機対応の一部を終了することを決めた。企業金融支援特別オペは10年3月末、CP・社債買い入れは09年末で終了するとした。

白川総裁は同会合で「(危機対応を)なかなか迅速にやめることができない、あるいはそういう組織だとみられてくると、今度は逆に導入する方も果断に導入することができなくなる」と述べ、異例の措置からの脱却を指揮した。

<再び危機対応>

しかし、日銀は再び危機対応に追われることになる。11月25日、アラブ首長国連邦 (UAE)の ドバイ首長国が、政府系持株会社「ドバイ・ワールド」の債務返済繰り延べを要請すると発表したことが契機となり、世界株安が進行。為替マーケットでは円高が進展した。日銀は12月1日、臨時会合を開催する。

グローバルな経済、グローバルな金融市場でもう一波乱あった場合にそれが日本にも反映してくるという意味での不安がやはり強い――。9月会合でこう口にした白川総裁の「不安」は的中し、日銀は追加緩和を決定。やや長めの金利のさらなる低下を目指し、10兆円を目途に資金供給を行うことにした。

<デフレ宣言で攻勢強める政権>

マーケットの変動に応じ、追加緩和に踏み切った日銀。しかし、長期国債の大量購入による量的緩和、インフレターゲットの導入、時間軸政策などより強力な金融緩和策を求めるマーケットや政治サイドにどう向き合っていくのか、日銀の苦悩は深まっていく。

09年9月の政権交代で発足した民主党・鳩山由紀夫内閣は11月、月例経済報告で日本経済は「緩やかなデフレ状況にある」とし、06年6月以来、3年5カ月ぶりに「デフレ宣言」を行った。12月1日の会合では、政府からの出席者が日銀に対し、政府の経済対策に歩調を合わせることに期待感を示した。

民主党政権の意向に沿う形で、日銀は手を打っていく。1日の臨時会合では声明文に「デフレ」の文言を盛り込み、デフレ脱却に取り組む姿勢を示した。17―18日の定例会合では「中長期的な物価安定の理解」を明確化し、ゼロ%以下のマイナスの物価は許容しないことを鮮明にした。

しかし、デフレと市場とのコミュニケーションを巡り、委員の間から懸念の声が上がった。

1日の会合で決めた新たな流動性供給策について、白川総裁が会見で「広い意味の量的緩和」と発言したことに、海外出張で臨時会合に出席できなかった野田委員は「『物言えば唇寒し』の感は禁じ得ない」と苦言を呈した。

委員の中には、01年から行った量的緩和の実体経済への効果について懐疑的な見方が多かった。野田委員は「準備預金の量というものは経済を刺激していく上でのあくまでも結果、産物に過ぎないということ、それから準備預金の量と金融緩和の程度には直接的に結び付くものではないということを、愚直にかつ丁寧に説明し続けていくことが必要だ」と述べた。

須田委員は、量的緩和に向かっているという見方に市場を誘導することなく、新型オペの金利への効果をきちんと説明していくべきだと話した。

「物価安定の理解の明確化」については、野田委員が「将来の政策に対してインプリケーションを微塵も持つものではない」と発言し、明確化がインフレターゲット導入と理解されることへの警戒感をあらわにした。

白川総裁は「非常に景気が良いにもかかわらず、物価が低いという、その一点でもって、低金利が長く続いたというのが2000年代の半ばの世界経済だった」と指摘。インフレターゲットの弊害に懸念を示した。

須田委員はメディア報道のあり方に苦言を呈した。1日の会合で「ここにきてデフレ議論が活発化しており、それが――本当にデフレ・スパイラルの話ばかりがテレビなどで議論されているので――企業とか消費者のマインドを悪化させて、それを通じて実体経済活動に悪影響が出てくるのではないか」と指摘。デフレを意識しすぎることで、自己実現的にデフレスパイラルに陥ることに危機感を募らせた。

最後は、日本銀行自身の情報発信とその受け手との双方の能力なり意欲の積に比例するという感じがする。一方だけでは、やはりなかなか上手くいかないというのが率直な思いである――。白川総裁は18日の会合でこう発言し、市場とのコミュニケーションがうまくいかないもどかしさを吐露した。

白川日銀はこれ以降も政府や世論、市場との向き合い方に悩み続け、円高圧力が強まる中で緩和策を求める声にさらされることになる。2%のインフレターゲットを盛り込んだ政府・日銀の共同声明が出るのは、自民党が政権に復帰した2013年1月。白川総裁辞任間際の出来事だ。

和田崇彦  編集:佐々木美和

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