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超円高や欧州債務問題に直面、8月・10月に追加緩和=11年下半期・日銀議事録

[東京 31日 ロイター] - 日銀は31日、2011年7─12月に行われた金融政策決定会合の議事録を公表した。3月に発生した東日本大震災で打撃を受けたサプライチェーンの復旧が想定より早く進み、生産活動に持ち直しの動きが広がる中、日本経済は歴史的な円高に見舞われた。欧州の政府債務問題にも直面し、日銀は8月に続いて10月にも追加緩和を決定するなど対応に追われた。(肩書は当時)

 日銀は1月31日、2011年7─12月に行われた金融政策決定会合の議事録を公表した。写真は2014年1月、都内の日銀前で撮影(2021年 ロイター/Yuya Shino)

<山口副総裁、宮尾委員の発言の真意質す>

「六重苦」──。この時期、自動車産業をはじめとする日本企業からこんな悲鳴が上がっていた。長引く円高、電力不足、高い法人税率、厳格な労働規制、通商交渉の遅れ、温暖化対策だ。とりわけ円高の進行には歯止めがかからず、格付け会社による米国債の格下げ検討の発表もあって、7月中旬にはドル/円が80円を割り込んだ。

日銀は7月11、12日の会合で金融政策の維持を決めたが、討議の中で、宮尾龍蔵審議委員が「適切な政策対応を具体的に検討する時期が来た」と切り出した。経済の持ち直しの動きをより確かなものにすることを通じて、デフレ脱却時期の見通しを早めるとともに、成長期待を高めるという観点から追加緩和を実施する、とロジックを展開した。

この後、山口広秀副総裁が宮尾委員に発言の真意を質した。「そう遠くない将来、追加緩和を提案されることを予告されたということなのか。それとも、状況変化に応じては、追加緩和をしないということもあり得べしということを、頭に置いての発言だったのか」。重ねて「こうした形で金融政策の先行きを非常に具体的に語られることの意味を、どのように考えられたのか」と尋ねた。

宮尾委員は「提案には至らなかったが、必要性は十分感じている」と説明。その上で、今後のより良い議論の一つの材料になればという意味で発言したと語った。

<政府の為替介入に呼応、資産買い入れ基金10兆円増額>

8月に入っても円高進行は止まらなかった。財務省は8月4日の朝方からドル買い/円売りの単独介入を実施した。日銀はこれに協調して4、5日の2日間で行う予定だった会合を1日に短縮して開催。資産買い入れ基金を10兆円増額し、総額50兆円とする追加緩和を決めた。

討議では、委員から基金増額による緩和強化の提案が相次いだ。山口副総裁は、目的は景気の下振れリスクに対応し、物価安定への道筋を確保することにあると説明。その上で、日銀の政策スタンスをしっかり対外的に打ち出すには、従来の増額幅である5兆円を大きく上回る規模にする必要があり「10兆円が一つの目安になる」と語った。

宮尾委員は「国内生産を維持し経済の成長と雇用を支える意思のある輸出企業、ものづくり企業にとっては、円高は大きな重石となる」と指摘。「政府が為替介入を実施したこのタイミングで金融緩和を一段と強化し、規模としてもインパクトのある思い切ったアクションに踏み切るべきだ」と述べた。

9月2日に民主党の野田佳彦政権が発足。直後の6、7日に開催した会合では、8月に実施した追加緩和の効果を見極めるべきとの声が多く、金融政策の維持が決まった。亀崎英敏審議委員は「一段と円高が進行した場合には、震災からの持ち直し途上にある日本経済を悪化させ、デフレ脱却を遠のかせる可能性が高いため、追加緩和策が必要となる」との見解を示した。

<世界経済に不確実性、ドル/円は75円後半へ突入>

10月6、7日開催の会合では、欧州政府債務危機の広がりに起因する世界経済の不確実性の高まりが議論された。金融機関が新興国市場から資金を引き揚げる動きが活発化し、相対的に安全な通貨とされる円に買いが集まりやすい状況だったことも円高の一因となっていた。

西村清彦副総裁は「前々回(8月)会合で思い切った政策変更を行ったが、その後、リスクの大きさが予想を超え、デフレ傾向からの脱却のための対策としては十分でない可能性がある」と指摘した。最終的に金融政策は現状維持となったが、ほかの委員からも将来的な追加緩和の可能性に含みを持たせる発言が続いた。

外為市場では10月下旬に円高が進行し、ドル/円は75円台に突入した。日銀は10月27日開催の会合で、資産買い入れ基金を5兆円増額し、総額55兆円とする追加緩和を決めた。

増額対象は長期国債で、基金による長期国債の買い入れ規模は9兆円となった。白川方明総裁は、長期国債の買い入れだけを増やすということに伴って、様々な思惑を生んでいくことになると指摘。日本の財政状況が悪い中で「『そういう買い入れをマネタイゼーションというのだ』という見方も増えてくる可能性はある」と語った。その上で、日銀の問題意識と対応の意図がしっかり伝わるよう、情報発信に細心の注意を払う必要があると述べた。

同会合では、宮尾委員が思い切った政策行動が経済・物価の下振れリスクのサポートになるとして基金の増額規模を10兆円とすることを提案したが、反対多数で否決された。

日銀の追加緩和後も円高進行は止まらず、10月31日にドル/円は一時75.31円を付けた。政府は同日、ドル買い/円売りの単独介入を実施。その後、円高進行は徐々に収まっていった。

<白川総裁、ユーロの仕組みや円高のメリット・デメリットに言及>

11月15、16日開催の会合では金融政策を維持した一方、海外経済の減速などを背景に景気の現状判断を下方修正した。先行きについては、タイで発生した大洪水により、企業の生産活動にマイナスの影響が出てくる可能性も指摘された。

討議では、多くの委員が欧州政府債務問題について時間を割いた。白川総裁は、ユーロの仕組みが様々な問題をもたらしているとの見方を示した。問題発生の過程では単一通貨ユーロのもとで加盟国が低利で資金を調達できる環境を突然享受するようになったことが大きかったと述べた。一方、政治的・財政的な意思決定が統一されていないことが先鋭的な形で問題として表面化してきていると語った。

亀崎委員は「今は海の向こうの方で起きているような問題だが、ある日突然、マーケットが日本の問題でもあるとみたら、これは本当に怖いことだ」と述べた。外国人は日本の国債を5%前後しか持っていないものの、この人たちが「これは信用できない」と言い始めれば、5%でも大変なことになると発言。「その時『いや違うのだ』と一生懸命説明してももうtoo lateだ」と語った。

山口副総裁は「日本の財政の問題やEUの財政の問題について、我々も一人の識者として語っていくべき──従来はそうしたテーマについて語るべきでないというディシプリンを我々自身かなり強く課してきた──ところに来つつあるのかもしれない」と述べた。

白川総裁は、財政の問題の背後には日本の人口減少と低成長という問題があるとし、そのような将来的な問題と無関係に為替の問題も考えにくいと述べた。円高のデメリットは産業空洞化の議論に代表される一方、メリットは輸入代金がその分節約されると言われていると指摘。「そのことを、私自身はもう少しバランス良く考えていき、バランス良く世の中でそれが消化されることが必要だと感じる」と語った。

<11月30日夜に臨時会合>

11月30日夜、日銀は臨時の決定会合を開催した。欧米主要中央銀行と協調する形で、米ドル資金供給の貸付金利引き下げなどを決めた。中村清次審議委員は「欧州のソブリン問題については解決が長期化することが懸念されており、邦銀への波及の可能性も全くないとも言えない」として、不測の事態に備えた適切な対応であり賛成だと述べた。

12月20、21日開催の会合も金融政策を維持した。11月15、16日の会合で、景気の判断を持ち直しのペースが緩やかになっているとしたが、同会合で「持ち直しの動きが一服している」に修正。先行きも、当面は横ばい圏内の動きになるとし、日本経済が事実上、踊り場入りしたとの認識を示した。

そうした状況で年を越し、迎えた2012年1月。米連邦準備理事会(FRB)は、2%のインフレ目標を導入すると発表した。インフレ目標の導入を長らく提唱していたバーナンキ議長の意向が実現した格好で、これによりFRBは歴史的な一歩を踏み出した。この動きは日本の政治家を刺激し、日銀に対してインフレ目標を採用するべきという圧力が強まっていった。

(杉山健太郎、和田崇彦 編集 橋本浩)

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