April 3, 2019 / 6:24 AM / 7 months ago

アングル:追加緩和の鍵握る「物価のモメンタム」、日銀内外で維持に疑問符

[東京 3日 ロイター] - 「物価上昇に向けたモメンタム」──。日銀が2%の物価目標達成時期を何度先送りしても、強気の姿勢を崩さないでいられるのは、この魔法の言葉があるからだ。物価上昇率が想定を下回っても、黒田東彦総裁はじめ日銀幹部は「物価のモメンタムは維持されている」と繰り返すが、では「モメンタム」とは何なのか。そして、それは今も維持されているのだろうか。

 4月3日、「物価上昇に向けたモメンタム」──。日銀が2%の物価目標達成時期を何度先送りしても、強気の姿勢を崩さないでいられるのは、この魔法の言葉があるからだ。写真は都内で2010年4月撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

「物価2%のモメンタムが損なわれれば、当然、追加緩和を検討する」と黒田総裁が3月20日の国会答弁で述べたように、物価上昇のモメンタムが損なわれるかどうかが、追加の金融緩和に動くかどうかの判断基準になっている。

3月の金融政策決定会合後の会見では「マクロ的な需給ギャップがプラスの状況が続くもとで、引き続き、2%に向けたモメンタムは維持されている」と言明。先行き、徐々に物価上昇率は高まっていくとの見立てを崩していない。

ただ、こうした日銀の公式見解と異なり、日銀内外で「モメンタム維持」に疑問を呈する声が出ている。       

ロイターが2月にエコノミストらを対象に行った調査では、現在、物価上昇のモメンタムが維持されていると回答したのはわずか3人、維持されていると思わないとの回答が33人と、9割以上の調査対象者が、もはやモメンタムは維持されてないとみている。   

日銀内部でも、片岡剛士審議委員が「2%に向けて物価上昇率が高まる蓋然(がいぜん)性は現時点では低く、モメンタムも強まってはいない」と述べており、予想物価上昇率を高めるような、期待に働きかける政策が必要と指摘する。

また、モメンタムは「勢い」であり、現状の物価に「勢い」は感じられない、と話す幹部もいる。

「物価上昇のモメンタム」について、日銀は、需給ギャップと予想インフレ率と説明する。2016年10―12月期にプラス転化した需給ギャップは、直近10―12月期でプラス2.23%となり、9四半期プラスが続いている。需給ギャップは日本経済の潜在的な供給力と実際の需要の差。需要が供給を上回っていればプラス、その逆ならマイナスだ。  

拡大を支えてきたのは、内外経済の回復基調と人手不足。足元では、中国を初めとする海外経済が不透明感を高める一方で、国内の人手不足はますます深刻化し、今のところ、需給ギャップが供給超過(マイナス)になるには距離がある。

ただ、3月日銀短観では、国内需給判断DIの供給超幅が拡大。大企業・製造業では5ポイント供給超方向に動き、14年6月調査以来の大幅な動きとなった。生産・営業用設備判断や雇用人員判断は引き続き「不足超」となっているものの「循環メカニズムは崩れていないと説明していた、その1つの根拠が崩れつつある」(第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏)との指摘も出ている。

複数の日銀幹部は「需要超過幅が拡大しなくても、プラスが維持できていればよい」と話しており、プラスを維持することで物価上昇につながるという絵を描いている。

モメンタムを支えるもう片方の車輪である「予想物価上昇率」は「横ばい圏内で推移」(日銀公表文)し、高まる気配がない。

「インフレ期待自体がここまで下がってしまうと、なかなか上がってこない」(幹部)という状況にあり、強力な金融緩和導入でも物価が上がらないまま、2%の物価上昇率が達成できなかった大きな要因の1つと言える。

実際の消費者物価指数(コアCPI・生鮮食品を除く総合)は昨年9月と10月に1%を付けた後は1%割れで推移している。2月の全国CPIでは、調査対象523品目中の上昇品目が前月から減少。今月19日に発表される3月分も1%割れでの推移が予想される。

その先をみても、昨年秋以降の原油価格下落の影響が遅れて出てくる電気料金・都市ガス料金の上昇率鈍化が見込まれる。また、携帯電話の通信料引き下げの影響も予想されており、春の食品値上げによる上昇率の拡大分は、吹き飛んでしまいそうだ。

「物価上昇のモメンタムが維持されている」としながら、2%の物価安定目標を定めてすでに6年が経過したが、依然として、足元の物価上昇率との間に大きな距離がある。

現在、日銀は1月の生産・輸出の悪化がどの程度続くのか、どの程度広がりを見せるのかといった点を重点的に点検している。

川上である生産・輸出の悪化が広がり、川中の設備投資にも大きく影響すれば、日銀が考える「前向きの循環メカニズム」は途絶えることになりかねない。そうすれば、需給ギャップの需要超過幅は縮小、人々の予想物価上昇期待も下振れ、いずれ波及するとしていた物価上昇も期待が持てなくなる。今、「物価のモメンタム」は岐路にあるといえそうだ。

清水律子 編集:田巻一彦

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