[東京 21日 ロイター] - 日銀が21日の金融政策決定会合で決定した金融緩和のための新しい枠組みの概要は以下の通り。
「量的・質的金融緩和」および「マイナス金利付量的・質的金融緩和」に関する総括的検証や経済・物価の現状と見通しを踏まえ、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するため、上記2つの政策を強化するかたちで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。
その内容は1)長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、2)消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の物価安定目標を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」である。
(1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
1.金融市場調節方針(賛成7反対2)
短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:10年物国債金利がおおむね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買い入れを行う。買い入れ額については現状程度の買い入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。買い入れ対象は引き続き幅広い銘柄とし、平均残存期間の定めは廃止する。
2.長短金利操作のための新型オペレーション導入(賛成8反対1)
*日本銀行が指定する利回りによる国債買い入れ(指値オペ)
*固定金利の資金供給オペレーションができる期間を10年に延長(現在1年)
(2)資産買い入れ方針(賛成7反対2)
長期国債以外の資産買い入れについては
1.ETFおよびJ─REITについて保有残高がそれぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う
2.CP、社債等についてそれぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持
(3)オーバーシュート型コミットメント
2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。
マネタリーベース残高は、イールドカーブ・コントロールのもとで短期的に変動しうるが、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続する。この方針により、あと1年強でマネタリーベースの対名目GDP比率は100%(約500兆円)を超える見込みである(現在日本は約80%、米国・ユーロエリアは約20%)
今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の物価安定目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。
*新たな枠組み導入の考え方
(1)イールドカーブ・コントロール導入の背景
量的・質的金融緩和は主として実質金利低下の効果により、経済・物価の好転をもたらし、日本経済は物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなった。
この実質金利低下の効果を長短金利の操作により追求する「イールドカーブ・コントロール」を新たな枠組みの中心に据えることとした。
その手段としては日銀当座預金へのマイナス金利適用と長期国債買い入れの組み合わせが有効であることが明らかになった。これに加えて長短金利操作を円滑に行うための新しいオペレーション手段を導入することとした。
(2)予想物価上昇率引き上げのための方策
一方、2%の物価案手目標は実現できていない。これは、1)原油価格の下落などの外的要因によって実際の物価上昇率が低下し、2)これが、「適合的な期待形成」の要素が強い予想物価上昇率の下押しに作用したことが主因と考えられる。
この状況に対応するため、予想物価上昇率をより強力な方法で高めていくことが必要と判断した。
具体的には、1)「フォワード・ルッキングな期待形成」を強めるため、オーバーシュート型コミットメントを採用する。「物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する」と約束することで、物価安定目標の実現に対する人々の信認を高めることが適当と判断した。
2)デフレマインド転換にはモメンタムが必要であり、「できるだけ早期に」2%を実現するとのコミットメントは堅持する。一方、「適合的な期待形成」の要素が強い予想物価上昇率を引き上げていくことには不確実性があり、時間がかかる可能性もある。こうした点を踏まえ、枠組みの中心にイールドカーブ・コントロールをすえることで、経済・物価・金融情勢に応じたより柔軟な対応を可能とし、政策の持続性を高めることが適当であると判断した。
(3)追加緩和手段
具体的な手段としては「イールドカーブ・コントロール」の2つの要素である1)短期政策金利の引き下げ、2)長期金利操作目標の引き下げ、を行うほか、3)資産買い入れの拡大が考えられる。状況に応じて、4)マネタリーベース拡大ペースの加速を手段とすることもある。
*内容を追加します。
石田仁志
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