[東京 11日 ロイター] - 日銀は11日に公表した地域経済報告(さくらリポート)で、全9地域中、関東甲信越と東海を除く7地域の判断を引き上げた。新型コロナウイルスの影響緩和で個人消費が全地域で引き上げられた。ただ、会見した支店長からは、感染再拡大や供給制約の長期化に加え、急速な円安、値上げがコストを吸収できていない現状といった日本経済を取り巻くリスク要因への懸念が相次いだ。
個人消費の全地域引き上げは今年1月以来だが、個人消費の判断は新型コロナの感染状況に左右される展開が続いている。前回4月はオミクロン株の感染拡大により全地域で引き下げとなった。足元では全国的に感染が再び急拡大しており、各支店長から観光への悪影響を懸念する声が上がった。
上海のロックダウン(都市封鎖)長期化による供給制約で、生産は関東甲信越、近畿、中国、四国の4地域で引き下げ。今年3月の福島県沖地震の影響が後退し、東北は判断を引き上げた。
中島健至名古屋支店長は、ロックダウンによる生産・輸出への下押し圧力は「数カ月単位で見れば徐々に緩和の方向に向かうことが期待される」とする一方、半導体不足は解消の見込みが立ちにくく、夏場の電力需給も楽観視できないとして「生産・輸出を巡る環境は引き続き不透明感が強い」と述べた。
<円安、海外での「価格優位性高まっている」との声>
急速な円安を巡っては「海外市場での価格優位性が高まっており、海外からの受注は引き続き増加している」(新潟、はん用機械)との指摘はあるが、支店長からは経済への影響を警戒する発言が出ている。
高口博英大阪支店長(理事)は「最近見られている為替市場における短期間での過度な変動は、先行きの不確実性を高め、企業の事業計画の策定等を難しくするため望ましくない」と指摘。企業収益、設備投資、物価、個人消費などさまざまな面で関西経済にも影響を及ぼすとした。
中島名古屋支店長は「(円安は)輸出にはプラスの効果が出てくるが、モノを作る上で輸入しなければならない資材もたくさんある。全体として見た場合の評価は難しい」と述べた。
資源高を受け企業は価格転嫁を進めているが、高口大阪支店長は「仕入れ価格の上昇を十分にはカバーしきれず、企業の収益マージンが圧縮される状況だ」と懸念を示した。
<賃上げ持続には景気回復が必要>
日銀は物価2%目標の持続的・安定的な達成には賃金上昇が必要だとみている。高口大阪支店長は「物価が上昇するもと、賃上げでその影響をある程度緩和したいという経営者も少なくない」と指摘。資源高など企業経営の不確実性が続く中で、賃上げがどの程度実現していくか注目していると話した。
濱田秀夫福岡支店長は「収益の先行きを考えるとなかなか賃上げに踏み切れない経営者も多く、賃上げは力不足の印象だ」と述べた。濱田福岡支店長、松野知之札幌支店長はともに、先行きの賃上げには持続的な経済回復が必要との見方を示した。
(和田崇彦 編集:田巻一彦、田中志保)
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