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アングル:ルラ氏がブラジル軍部に「アメとムチ」、簡単でない掌握

[ブラジリア 23日 ロイター] - ブラジルのルラ大統領は軍部に対して「アメとムチ」を併用して自らの権威を確立し、8日に大統領府や議会などの襲撃事件が発生した後も軍内部に根強く残るボルソナロ前大統領への親近感を払しょくしようとしている。

1月23日、ブラジルのルラ大統領(写真)は軍部に対して「アメとムチ」を併用して自らの権威を確立し、8日に大統領府や議会などの襲撃事件が発生した後も軍内部に根強く残るボルソナロ前大統領への親近感を払しょくしようとしている。訪問先のアルゼンチン・ブレの巣アイレスで23日撮影(2023年 ロイター/Agustin Marcarian)

ルラ氏は21日、襲撃事件を起こしたボルソナロ氏支持者らが集まっていた「テント村」を排除せよという政府の命令を聞かなかったとの理由で、デアルダ陸軍司令官を解任した。

後任に起用したのは南東司令部のパイバ司令官だ。彼は数日前にソーシャルメディアへの投稿動画で、ルラ氏が僅差でボルソナロ氏に勝利した昨年の大統領選結果を尊重するよう軍の各部隊に熱心に呼びかけていた。

襲撃事件についてルラ氏は、先週のテレビ番組のインタビューで、軍の一部との共謀があったと確信していると断言。「クーデターが始まったと思った。ずっと前からボルソナロ氏が与えていた指示に関係者が従ったという印象さえ持った」と語った。

その上でルラ氏は、与党労働党の要求通り、文民であれ軍人であれ襲撃にかかわった全ての人物に裁きを受けさせると約束している。

ただ、ルラ氏は20日に軍高官と会談した際にはこの襲撃事件に言及しなかった、と会談の様子を知る政府高官の1人が明かした。

国防省の声明によると、その代わりにルラ氏が重視した話題は軍が国防上必要だとしている兵器などの正面装備問題で、産業界首脳を会談に招いて装備の充実に向けた投資や生産について議論したという。

ルラ氏が軍内部の不信感を和らげるために兵器開発や国防予算の拡大を強調したことは、2003―10年に大統領を務めていた時代と重なる。ルラ氏支持の左派勢力が軍の刷新を要求する状況下にあっても、軍幹部との新たな関係を構築する心づもりがあることをはっきりと物語っている。

<パンドラの箱>

もっとも国防支出で甘い顔をすることで、軍内部の親ボルソナロ氏ムードを解消できるかどうかは疑問の余地が残る。

事情に詳しい関係者はロイターに対し、ルラ氏は軍に対して政治色を取り払うよう求めていると語った。しかし、防衛問題や政治リスクの専門家らは、4年間のボルソナロ政権の下で政府内の高い地位や多額の報酬を得てきた軍幹部は、いきなり中立的になれと言われても無理だと話す。

実際、首都ブラジリアにある陸軍総司令部の周囲に軍のクーデターを要求して集まったデモ隊の中には、れっきとした現職の軍幹部の家族まで含まれていた。

シンクタンク、ジェトゥリオ・バルガス財団のオリビエ・シュチュエンケル氏はロイターの取材に対して、メディアが政権への不服従を報じたデアルダ氏に関しては、ルラ氏としては政治的な必要から更迭せざるを得なかったとの見方を示した。なぜならルラ氏は、軍内部の親ボルソナロ氏的な心情を何とかしろという一般国民からの重圧に直面しているからだ。

それでもシュチュエンケル氏は、政府が軍内部の反民主主義分子の除去と追求にこれ以上踏み込むつもりはないと話した。

ブラジルの軍は1985年に文民政権に権力を移譲したが、アルゼンチンやチリと異なり、個々の軍人が人権侵害で法廷に立たされたことは一度もない。

このため今もなお、国政への発言力を有しているとの思いがあり、こうした政府と軍の関係を修正するのは時間がかかるとシュチュエンケル氏は言う。

また、ルラ氏がこうした関係を変えようと取り組めば、貧困や格差の解消という一番の目標を達成するために不可欠な時間を奪われる恐れもあるという。

「これまでに起きた事態を理由に軍幹部への処罰を始めたのは法的には正しいが、政治的には『パンドラの箱』を開けてしまうことになる」とシュチュエンケル氏は警告。「ルラ氏は一刻も早くこの問題が過ぎ去ることを望んでいる」との見方を示した。

ブラジリア大学のパウロ・クラマー教授の話しによると、ムシオ国防相は軍を敵対的にしてしまうような厳しい措置は講じないようルラ氏を説得している。ムシオ氏は保守派の政治家で、国防相就任は軍にも歓迎された。

とはいえ依然として、冷戦時代の国家安全保障ドクトリンに基づく訓練を続けている軍の内部には、ルラ氏が率いる労働党への不信が深くしみついている、とコンサルティング会社ホールド・アセソリア・レジスラティバのアンドレ・セザール氏は指摘する。

セザール氏は「軍と左派政権はこれからずっと緊張関係が続くだろうから、もう取り返しはつかない」と述べた。

(Anthony Boadle記者)

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