June 2, 2018 / 12:53 AM / 5 months ago

焦点:ブラジルで多発する貨物強盗、アマゾンのEC旋風阻むか

Gram Slattery

 5月30日、ブラジルの2大都市を抱えるサンパウロ、リオデジャネイロ両州だけで、昨年2万2000件の貨物強盗が報告されている。1日当たりで過去最高の約60件という頻度だ。写真はトラック輸送・物流部門の国内最大手ブラスプレスで働く人々。グアルーリョスで3日撮影(2018年 ロイター/Paulo Whitaker)

[グアルーリョス(ブラジル) 30日 ロイター] - サンパウロの埃っぽい郊外に設けられた格納庫のような部屋では、ずらりと並んだモニターをにらみながら、元憲兵隊大佐アントニオ・マーリン氏と10数人のスタッフが、数百台もの貨物トラックの位置を追跡している。

サンパウロ州憲兵隊に従事していた34年間のあいだで、大腿部に銃撃を受けたり、州知事の護衛を2年間務めた経験もあるマーリン氏だが、民間トラック運送会社における現在の職務が、彼にとって最大の試練となるかもしれない。

ブラジルでまだ発展段階にある電子商取引(EC)ビジネスを揺るがす度重なる貨物強盗から、衣料品や化粧品などの商品を守ることが、マーリン氏の仕事だ。

国内2大都市を抱えるサンパウロ、リオデジャネイロ両州だけでも、昨年2万2000件の貨物強盗が報告されている。これは1日当たりで過去最高の約60件という頻度で、2012年から倍増している。貨物輸送を襲っているのは組織的な犯罪集団だとみられており、年間損害額は数億ドルに達すると試算されている。

「リスクは常にある」とトラック輸送・物流部門の国内最大手ブラスプレスで警備部門を率いるマーリン氏は語る。「貨物をトラックに積んだ瞬間から始まり、国内移動中ずっとだ」

あらゆる種類のビジネスが標的となっているが、強盗団が特に好むのは、盗品の転売が容易な消費者向け商品だ。このことは、急成長するブラジルの電子商取引にとって、特に大きな障壁となっている。警備コストが利益マージンを圧縮しており、オンライン小売や物流関係企業は、ブラジルでの事業戦略の練り直しを迫られている。

例えば、オンライン小売ビア・バレージョ(VVAR3.SA)は、トラック監視のために人工衛星を利用した追尾システムを開発。同社の物流部門を率いるマルチェロ・ロペス氏はロイターに対し、多くの貨物に武装警備員を随伴させていると語った。

「セキュリティについては費用を惜しまない」とロペス氏。「商品とスタッフを守るためにかなりの投資をしている」

同社は「クリック・アンド・コレクト」事業にも資金を投じている。オンラインで注文した商品を、顧客が系列の実店舗で受け取れるサービスだ。ロペス氏によれば、このプログラムは安心を重視する労働者階級の消費者に好評であり、危険な地域を行き交う配送トラックの本数も減らすことができるという。

ブラジルの小売会社マガジンルイザもオンライン販売を成長させるために同様のモデルを採用している。だが、ルイザ・トレジャーノ会長の昨年の談話によれば、貨物強盗への懸念もあり、リオデジャネイロ州での事業拡大は避けているという。

1つの大陸並みに広大なブラジルでは、貧弱なインフラと高い税金、煩雑な官僚機構によって、かねてより貨物輸送コストは割高だった。貨物強盗の多発によって、その状況は悪化の一途をたどっている。

この厳しい環境は、アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)にとっても試金石となる。この世界最大のオンライン小売会社はブラジルで電子書籍やデジタルムービーを中心とする販売事業を約6年続けた後に、大規模な事業拡大へと大きく舵を切った。

アマゾンは自社戦略を語ることを拒んでいるが、小売業界の重鎮らは、アマゾンも注意を怠らない方がいいと警告する。

ブラジルは「他国で成功した企業にとって、非常に異なる現実を突きつける」と、マガジンルイザのフレデリコ・トラジェーノ最高経営責任者(CEO)は、4月の公開イベントで語った。

<多人数、重武装による襲撃>

3月のある週末、ブラスプレスの警護センターは午後2時ごろ、その連絡を受けた。リオデジャネイロ北部の交通の激しい幹線道路で、衣料品を運んでいたトラックが窃盗団によって停車させられた、と同社警備員が、現場から無線で支援を求めてきた。

「トラックを妨害された」──。ブラスプレスがロイターに提供した録音記録の中で、警備員はそう叫んでいた。「2台の乗用車が行く手を阻んでいる。彼らは重武装だ」

マーリン氏のチームは遠隔操作でトラックのエンジン点火装置を切り、窃盗団は逃走した。運転手と2人の警備員は無事だった。

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だが戦いは決して終らない、と語るマーリン氏。55歳の頑健な同は、サンパウロの治安の悪い地域パトロールからキャリアをスタートした。彼の警備センターで行われた取材の最中にも、違うトラックからリオデジャネイロ州で襲撃が発生したとの連絡が入った。

ブラジルの貨物強盗は今年、過去最悪を更新する勢いで増加している。同国南東部の道路は、こうした強盗事件の多発を理由に、保険業界が5月発表した「世界で最も危険な道路」ランキングで第8位に選ばれた。これは、戦争で荒廃したイラクよりも危険度が高い。

強盗事件の増加は組織的な犯罪集団に原因があると物流や小売業界の幹部は指摘する。特に問題なのがリオデジャネイロ州で、麻薬犯罪組織の摘発のために軍が介入したが、無法状態に歯止めをかけるという点では、ほとんど役に立たなかったという。

リオデジャネイロ州で恐れられている麻薬犯罪組織「レッド・コマンド」は、警察官を買収したり、輸送情報を入手するために民間企業に内通者を潜入させたりしている。このため、かつては平凡な路上犯罪だった貨物強盗が高度化している、と物流の専門家は警戒する。

「貨物強盗は麻薬密輸と同じくらい稼ぎになる」。チリのセンコスッド傘下で、リオデジャネイロに本拠を置く食料品チェーンのプレズニックで物流部門を率いるアウレリオ・プロメッティ氏はそう語る。

同社トラックへの襲撃は2015年から2016年にかけて4倍に急増した、とプロメッティ氏は言う。

貨物強盗による損失を正確に測る指標は入手困難だ。全国規模の貨物取引グループNTC&ロジスティカは、2016年に13億6000レアル(約400億円)の損失が生じたと試算するが、実際の損失は、恐らくはるかに高い。

サンパウロ州貨物輸送協会のヘロー理事長によれば、加盟企業が報告する警備への投資額は、ほんの数年前までは平均で売上高の4─6%程度だったが、現在は10─14%にまで増加しているという。

治安の悪いリオデジャネイロ州では、その比率が15─20%にも達している。たとえば食料品チェーンのプレズニックでは、貨物の多くに武装警備員が護衛として随伴しており、低マージンの事業にもかかわらずコストが増大していると、同社のプロメッティ氏は言う。

保険料も上昇している。保険各社は、リオデジャネイロ州での貨物輸送について貨物価額の最大1%に相当する「緊急料率」を要求している、と同州の貨物輸送協会の幹部は語る。

マガジンルイザ、ビア・バレージョ両社の幹部らによれば、損失に歯止めをかけるため、治安の悪い地域における配送業務の一部を、現地の状況をよく知る地元企業に外注しているという。

物流企業テグマ・ジェスター・ロジスティカ(TGMA3.SA)は2014年、EC関連の運送事業を、大手オンライン小売のB2Wシア・デジタル(BTOW3.SA)に売却したが、テグマのオドンCEOは、売却理由の一つは警備問題だったとロイターに語った。

<切り札は航空輸送か>

マーリン氏が指揮を執る警備センターでは、サンパウロから隣接するミナスジェライス州ベロオリゾンテまでの595キロの行程で、運転手がトイレ休憩を許される数少ない場所がモニター上に表示される。

強奪が発生する可能性を示す「ヒートマップ」が、運転手が取るべきルートを指示している。赤い表示は深刻な危険のある地域だ。画面には赤い部分が広がっている。スタッフは、道路周辺で発生したトラブルの情報を把握するため、ソーシャルメディアもチェックする。

トラック襲撃にうんざりした一部の企業は、空路を選び始めている。

ブラジルの航空会社アズール(AZUL.N)では、ここ数年、貨物事業が劇的に伸びた。同社貨物部門の営業部門を指揮するレアンドロ・ピレス氏は、携帯電話などの軽量だが高価格の消費財輸送が特に伸びていると語る。リオデジャネイロとサンパウロを結ぶ354キロ程度の短距離路線でさえ、需要が伸びているという。

だが、航空輸送も絶対に安全というわけではない。

3月初旬、警備員を装った窃盗団がサンパウロ近くの空港に侵入し、独ルフトハンザ機で空輸予定だった現金500万ドルを奪って逃走した。ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で1978年に発生した有名なルフトハンザ機に対する強奪事件を思い起こさせるような犯罪だ。サンパウロでの事件はまだ解決していない。

「犯罪者は日々進化している」とブラスプレスのマーリン氏。「私たちも、それに合わせて学習し、適応しつつある」

(翻訳:エァクレーレン)

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