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コラム

コラム:米中絶否定判断、企業は見て見ぬふりで対応の公算

[ニューヨーク 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米連邦最高裁判所が24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた以前の「ロー対ウェード判決」を覆す判断を示したことは、歴史的な大事件だ。だが、米国で事業を行う企業にとって、この判断に関する「費用便益分析」の結果はおなじみの内容になる。企業経営者は結局、米国の非リベラル州を新興国と変わらない目で見るだけのことだろう。

 6月27日、 米連邦最高裁判所が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた以前の「ロー対ウェード判決」を覆す判断を示したことは、歴史的な大事件だ。写真は25日、米最高裁前で判決に抗議する人々が掲げた米国旗(2022年 ロイター/Evelyn Hockstein)

最高裁の判断を受け、実際に中絶を規制するかどうか、あるいはどのように規制するかは各州の裁量に委ねられる。27日時点で少なくとも8州は中絶を禁止しており、全50州の約半分も既に導入した法律の下で中絶を違法とする態勢が整っている。

デューク大学の見積もりでは、中絶ができなくなると母体の死亡数が20%余り増加する恐れがあり、黒人の母親なら死亡増加率は約33%に達するとみられる。

そうした心配を承知している企業では、従業員を安心させるための措置を講じ始めた。例えば、フェイスブックを運営するメタ・プラットフォームズや、ゴールドマン・サックスなどは、中絶手術を含む産婦人科系の医療サービスを受けるために現在暮らしている州から別の州に出かけていく必要がある従業員に対し、旅費を支給するとしている。

しかし、今回の最高裁の判断に反対している過半数の米国民は、もしも影響力の強い大手企業経営者がもっと積極的に動いてくれると期待しているなら、がっかりすることになる。

世界には一部の国で当たり前とみなされる自由が、社会の安定、あるいは絶対的な政治理念の名の下に制限されている地域が存在する。多国籍企業はこれらの地域にも拠点を設け、現地の政府とうまく折り合ってきた長い歴史があるのだ。

ピーターソン国際経済研究所によると、外国から中国への直接投資額は昨年に3440億ドルと前年比で約33%も増加。サウジアラビアの国営メディアが伝えた外国からの純投資額も昨年、3倍以上に膨らんだ。

中国とテキサスなどの米国の一部の州は、幾つか似通った面がある。テキサスも中国と同じく法人税率を低く設定しているほか、優秀な大学が複数存在し、面積が広い。

ゴールドマンやアップルは、テキサスの州議会多数派を占め、知事を送り出している共和党が同性愛を「異常な生活スタイル」と宣言するのを「見て見ぬふり」をしながら事業を展開。多様性推進を高らかに提唱している企業として、何とも居心地の悪い状況にある。これらの企業からすれば、中絶禁止も同じような単なる事業運営上のコストとなる。

もちろん典型的な新興国と同じような振る舞いが、ある国や州に対して常に経済的成功をもたらすとは限らない。ミシシッピの場合、フォーチュンが算出する全米上位500社のうち州内に拠点を置く企業はゼロ。また、民間団体コモンウェルス・ファンドの調査に基づけば、同州は米国で医療システムの機能が最低とされる。

ところが、そんな同州でさえ、成長力は魅力になる。実際にJPモルガンが昨年、ミシシッピに初の支店を開いた。

企業トップに、ある地域で収益が見込めるが政府の姿勢が強権的なことをどう思うか聞いてみると、大抵は事業場所の法令に従うまでで、その法令に異を唱えるのは企業の役割ではないと言うだろう。

株主もほとんどのケースで、そうした主張を黙認している。企業にとっては、米国にもこの方式で事業を進める新たな場所が生まれたに過ぎない。

●背景となるニュース

*米連邦最高裁判所が24日に人工妊娠中絶の合憲性を認めた以前の「ロー対ウェード判決」を覆す判断を示したことを受け、複数の州が中絶禁止に動き始めた。

*13州は既に、最高裁が「ロー対ウェード判決」を覆せば自動的に中絶を禁じる「トリガー法」を制定している。

*グットマッハー研究所の区分けに基づくと、テキサス、ミズーリ、サウスダコタ、オクラホマなど9州が27日時点で最も厳しい中絶制限を設けている。ニューヨーク、カリフォルニア、オレゴン、イリノイなど11州は、中絶に対して「保護的」ないし「最も保護的」だという。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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