[ニューヨーク 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - アップルをどう評価するかについてはさまざまな尺度がある。直近では、生産を請け負う台湾の鴻海精密工業が、新型コロナウイルスの感染対策に絡んで中国本土の工場で減産する恐れがあるというニュースが飛び込んできた。ただこれは、アップルの消費者に起因する厄介な問題に比べればたいしたことはないように見える。
アップルは6日、河南省鄭州にある鴻海の工場で生産に支障が出たため、最新のiPhone(アイフォーン)14シリーズの上位機種の出荷が想定を下回るとの見通しを示した。富邦投顧によると、鴻海は全アイフォーン生産の約70%を担っており、その大半をこの工場で生産している。関係者によると、生産量は最大で30%落ち込む可能性がある。上位機種の受け取り時期は現時点でも12月第1週か第2週以降までと長くなっているだけに、問題発生のタイミングとしては好ましくない。出荷がより遅くなれば、年末商戦でのアイフォーン販売台数が一段と減少しかねない。
もっとも、理論的に考えればこれは何とかやりくりできる状況のはずだ。アップルは昨年、アイフォーンの35%前後を年末商戦期に販売した。だから鴻海の工場のトラブルが1カ月続くとすれば、そのおよそ12%が影響を受ける。さらに鴻海の生産シェアが70%で、鄭州工場で生産量の3分の1が失われる想定なら、年末商戦における販売の打撃は2.5%程度にとどまる。アップルにとってアイフォーンは全収入の半分強を占めているため、結局売上高の1%前後を喪失するというだけの話になる。
確かに望ましい展開ではないものの、「アップル王国」が供給制約によって脅かされることはないと言える。むしろ不安が大きいのは、需要減退を含めた幾つかのしつこくつきまとっている問題だ。アップルは最近、アイフォーン14シリーズの増産計画を棚上げした。販売鈍化はある程度想定されていたとはいえ、そこでの落ち込みを穴埋めするには、広告やアプリ、クレジットカード、グーグルからのライセンス料といった他の分野で余計に稼ぐ必要があった。ところが今年7-9月期のサービス売上高の伸びは5%と、前年同期の25%から大幅に減速したのだ。
投資家にとって悩ましいのは、アップルのバリュエーションがこれまで相当な規模に膨らんできたのは、たとえスマホ市場が成熟化する中でもアップルはアイフォーン利用者から収益をより多く獲得し続けられるという前提に基づいている点にある。アップルの足元の株価収益率(PER)は向こう12カ月の予想利益の22倍と、過去10年平均より30%近くも高い。こうして見ると、生産トラブルは決して好材料ではないが、目下のアップルにとっては一番小さな問題に過ぎない。
●背景となるニュース
*アップルは6日、スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」最新型「14」シリーズ上位機種の「プロ」「プロマックス」について、出荷台数が想定を下回るとの見通しを示した。鴻海精密工業が中国河南省鄭州で運営する工場の生産問題が原因。ロイターが10月31日に関係者の話として伝えたところでは、同工場の生産が30%落ち込む可能性がある。
*鴻海は10月30日の声明で、状況は徐々に落ち着きつつあり、悪影響緩和のために他の拠点も駆使してバックアップ生産能力を整えるとしている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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