[ワシントン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - バイデン米大統領が供給網に関するジレンマの打開策を探そうとするなら、客観的に自分自身を見直してみれば良い。バイデン氏は数々の供給制約を緩和したがっているが、自ら打ち出した政策の一部がその妨げになっている。追求する目標同士がぶつかり合っており、このままでは消費者物価の高騰をすぐに解決する方法が見当たらない。
消費需要の急増とコロナ禍に伴う生産・物流の活動減速が相まって、世界中で物づくりとその取引に支障を来している。15日には、ロサンゼルス港とロングビーチ港の沖合で待機を強いられた貨物船は、コンテナ船114隻を含めて計170隻と過去最高を記録したことが、南カリフォルニア海事取引所のデータで明らかになった。
実は、幾つかの簡単な手を打てば効果が期待できる。例えば、中国は港湾でコンテナを移動させる機械を製造し、しかも米国への主要な供給元になっている。
しかし、バイデン氏が中国とのより公正な貿易関係を目指す中で、米政府はこうした製品に懲罰的な関税を導入し、既に品薄状態になっている同製品の価格を押し上げてしまった。
バイデン氏と中国の習近平国家主席は15日に友好的な会談を行ったとはいえ、ほほ笑みを浮かべたのは、ほぼカメラ映りを良くする意味でしかない。中国に厳しく向き合うという立場で選挙を戦ったバイデン氏とすれば、政府補助金や他の不公正とみなす慣行で中国から譲歩を引き出せずに、関税を撤回すれば弱腰とみられてしまうだろう。
ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策も、痛手になるかもしれない。100人以上を雇用する企業や連邦政府と取引がある企業は、来年1月までに従業員にワクチン接種を完了させるか、定期的な陰性証明を提出することが義務付けられている。
ところが、企業はそもそも人を雇う段階で苦戦中だ。米労働省によると、輸送業と倉庫業の求人は9月時点で58万9000件にも上った。企業に従業員のワクチン接種を義務付ける規則は、商業トラック運転手に関して、幅広い適用除外項目を設けた。それでも米国トラック協会は、この規則撤回を求める訴訟を起こすほど悪影響を懸念している。
労組も火種になりつつある。米西海岸の港湾労働者が加盟する国際港湾倉庫労働組合(ILWU)と、港湾施設運営業界団体の太平洋海事協会(PMA)が締結している現在の労働契約は、来年7月に期限が切れる。約6年前に行われた直近の新契約を巡る労使協議では、施設の稼働が滞り、数カ月にわたって混乱が続いた。そして、労組側の交渉力は今の方がさらに強まっている。
バイデン氏は政策の策定に際して「縦割り方式」を用いてきたことで、全体として供給網が抱える問題を悪化させる不幸な結果を招いている。
前任のトランプ氏と異なり、バイデン氏は企業トップと親密な関係も築いていない。政権が躍起になって供給制約の解消に取り組む中で、米国の消費者がそのツケを支払っているのはそれが一因だ。
●背景となるニュース
*バイデン米大統領は15日、超党派で合意した総額約1兆ドルのインフラ投資法案に署名し、同法が成立した。バイデン氏は、これが供給網を巡る問題改善やブロードバンド通信のアクセス拡大、ブルーカラー労働者の雇用創出に役立つと強調した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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