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コラム

コラム:加速するワクチン開発、残る多くの疑問点

[ニューヨーク/ロンドン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - アストラゼネカAZN.L、ファイザーPFE.Nなどの製薬企業グループが、新型コロナウイルスに対するワクチンについて規制当局からの承認を得られる日も近いかもしれない。米連邦議会予算局の試算によれば、今回のパンデミックによって生じるコストは米国だけでも約8兆ドル(約855兆円)とされているが、ワクチン開発が成功すれば危機の緩和も見えてくる。

 ワクチンの効果に対する疑問符は残っている。製造上の制約により、貧困国に行き渡るには時間が必要かもしれない。製薬各社がどの程度の見返りを得られるかも、やはり不透明だ。写真はサンディエゴにある製薬会社の研究施設で3月撮影(2020年 ロイター/Bing Guan)

だが、ワクチンの効果に対する疑問符は残っている。製造上の制約により、貧困国に行き渡るには時間が必要かもしれない。製薬各社がどの程度の見返りを得られるかも、やはり不透明だ。

<ワクチン候補の種類は>

現在開発中のワクチンは、最先端のタイプから信頼性の高い古いタイプのものまで、150種類以上もある。やり過ぎるくらい試してみる価値はある。多くの候補は治験にまで到達できず、本当に成功するワクチンは約20%程度だ。

最も注目を集めているのは、モデルナMRNA.Oやファイザーが取り組んでいる核酸ワクチンである。このタイプは、被投与者の細胞をだましてウイルスからタンパク質を合成させ、それに対する免疫系による攻撃を誘う。開発期間は短く、ウイルスの遺伝子コードを特定してからヒトに対する治験開始までわずか2ヶ月だ。ただし、過去にこのタイプのワクチンが承認された例はない。

もう1つの手法は、別のウイルスが新型コロナウイルスの遺伝子コードを運搬するよう組み換えることだ。中国のカンシノ・バイオロジクス(康希諾生物)6185.HK、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)JNJ.N、アストラゼネカは、いずれもこの方式によるタイプを開発している。これも実用レベルでは実績がない。さらに、組み換えの対象となるウイルスに曝露したことのある人の場合、免疫反応が生じないリスクがある。

グラクソスミスクラインGSK.LとサノフィSASY.PAによるワクチン候補は、実際のウイルスの断片を身体に注入するものだ。一方、弱毒化したウイルスを使おうとしている研究者もいる。これらの手法は時間がかかるが、他の疾病に用いられて成功を収めており、簡単に製造できる可能性もある。

<承認の時期は>

通常、ワクチン開発は時間がかかるプロセスだ。過去の最速例でも4年を要している。研究者らは、病原体を分離し、ワクチン候補を作り、動物を使って安全性をテストする。それから3段階にわたってヒトを対象とする治験を行うが、これに時間と資金がかかる。

だが、緊急の必要性が生じたことで、こうしたスケジュールは覆された。製薬各社は、人間を対象とする治験と動物実験を平行して行っている。米国などは、各社がより迅速に治験を進められるよう、巨額の資金を投じている。すでに「フェーズ3」治験、つまりヒト対象の治験が開始されたワクチンは6種類。先頭を走るのはモデルナ、ファイザー、アストラゼネカ、カンシノ・バイオロジクスだ。すべてが順調なら、晩秋には最初のワクチンが市場に登場するかもしれない。

米食品医薬品局では、いかなるワクチンも、少なくとも50%の確率で疾病予防の効果がなければならないと述べている。これは普通のインフルエンザワクチンと同等の効果だ。新型コロナウイルスが大きく変異する可能性はインフルエンザよりも低いようであり、毎年行われるインフルエンザワクチンの投与よりも効果が長続きする可能性もあると思われる。

とはいえ、現在のワクチン候補が出ていることでCOVID-19の深刻さは低下するだろうが、いずれかのワクチンが人体への感染を阻止できるかどうかは依然として不透明である。つまり、ワクチン投与を受けても、脆弱性の高い人々はウイルスへの曝露を心配すべきかもしれない。さらに、COVID-19は新しい疾病であり、もっと理解が深まるにつれて、新たな症状が判明することも考えられる。

<ワクチンの製造ペースは>

各国政府は、ワクチンの承認前から、製造能力を拡大するよう製薬各社に資金支援を提供している。米国はさまざまな企業から少なくとも7億回分のワクチンを購入する可能性がある。アストラゼネカ、モデルナ、ファイザーの3社だけでも来年末までに43億回分を用意できると予想しており、これは世界人口の半分をカバーするのに十分な量だ。だがすべてのワクチン候補が成功するわけではなく、失敗に終るワクチンにリソースが無駄遣いされるリスクもある。

<ワクチンは公正に配布されるのか>

期待できない。入手の列の先頭に並ぶのは、米国、英国などワクチン開発を支援してきた富裕国だ。公正な配布を保証するグローバル機関は存在しない。世界保健機構では、2022年までに各国人口のうち最も脆弱な20%にワクチンを投与することをめざす「COVAX」と呼ばれる取り組みを立ち上げている。

一筋の希望と言えるのは、現在ワクチン製造能力への投資が行われているため、最初のワクチンが登場してから1年ほど経てば、恐らく製造能力に余裕が生まれてくるということだ。そうなれば慈善団体や製薬各社により、貧困国に対して、もっと低価格でワクチンを提供できるようになるだろう。

<大手製薬企業はどの程度利益を上げられるのか>

モルガンスタンレーの試算によれば、恐らく先進諸国の国民18億人が最初の1年ほどのあいだに西側企業のワクチンを使用することになり、これらの市場での価格は被投与者1人当たり平均約5─10ドルになるという。貧困国の国民約20億人については、非営利組織や慈善団体により、1人当たり1─3ドルを負担するだろう。中国やロシアといった国は、自国製薬企業のワクチンを利用する。合計すると、最初の投与分で、西側製薬企業の売上高は120億─260億ドルになりそうだ、というのがモルガンスタンレーの計算である。鍵となるのは、各国政府がワクチンにどれだけの対価を支払おうとするかという点だ。

<ワクチンが成功しなければどうなるか>

最先端のワクチンの多くは、ウイルスの同じタンパク質を標的にしている。すると、すべてのワクチンで副作用が生じる、あるいは短期間の免疫しか提供できないという可能性がある。ワクチンが承認を得られなければ、行動制限が長引き、経済に大きな悪影響が生じるだろう。

もっと心配なのは、各国政府が効きもしないワクチンを承認するよう規制当局に圧力をかけることだ。ロシアは8月11日、通常であれば薬剤の効果を証明するために行われる最終フェーズの治験すらまだ実施していないうちに、1種類のワクチンを承認した。無効なワクチンは、投与を受けた人が警戒を緩めてしまうため、さらに大規模な感染拡大のリスクを高めてしまう。またワクチンに対する社会の不信感を高め、もっと優れたワクチンが登場しても疾病を封じ込めることが難しくなってしまう。

ワクチンが承認されれば、株式市場には大きな追い風になるだろう。だが成功までに多くの困難があることを思えば、世界の人々と経済に対してどれくらい持続的な効果があるのか、まだ五里霧中である。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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(翻訳:エァクレーレン)

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