[ロンドン 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英国当局は米国の巨大IT企業に対してはっきりとしたメッセージを送っている。「他社の事業を買収せず、自前で立ち上げろ」と。
英競争・市場庁(CMA)は26日、米マイクロソフトによる米ゲーム大手アクティビジョン・ブリザード買収計画にとって致命的になるかもしれないほどの打撃を与えた。690億ドルでアクティビジョンを傘下に収めるのは、急成長を続けるクラウドゲーム市場の競争を阻害する懸念があるとの理由で承認しないと発表したからだ。
巨大IT企業が独占禁止問題の担当当局から大型買収にゴーサインをもらえる可能性は、「難しい」から「極めて難しい」へとさらに切り上がったと言える。
CMAの判断は予想外だった。3月に発表された声明では、マイクロソフトがアクティビジョンのゲームについて、ライバルのゲーム機に対して門戸を閉ざし続けるインセンティブはないと結論付け、買収成立への道を開いていたからだ。CMAは調査の焦点をクラウドゲーム市場に絞っていた。一方マイクロソフトは、アクティビジョンの人気ゲーム「コールオブデューティ」を任天堂やエヌビディアに提供するといった譲歩案を提示した。
しかしCMAは最終的に、そうしたマイクロソフトの対応だけでは競争阻害懸念は十分緩和されないと決定した。譲歩案は将来的に修正される恐れがあるほか、当局が事後的に目を光らせ続ける必要があり、急成長する市場でそうした任務を遂行するのは困難だ。さらにCMAの分析では、マイクロソフトは世界のクラウドゲーム市場で60─70%のシェアを握っているとみられる。
マイクロソフトとアクティビジョンは今回の判断に異議を申し立てるだろうが、決定を覆すためのハードルは高い。英国の制度では、CMAの調査と一連の手続きが法に基づいて適正に進められたかどうかのみが今後審査される。つまり両社が追加的な対応策を講じるなどして買収承認を獲得する余地は存在しない。
他のIT大手もこの制度の厳しさを身をもって学んできた。メタ・プラットフォームズは昨年、傘下のアニメーション画像(GIF)作成・共有プラットフォーム企業ジフィー売却を命じたCMAの決定取り消しを半年以上も試みて結局徒労に終わった。さらにマイクロソフトとアクティビジョンの案件の場合、他の規制当局も妥当性を疑問視している。欧州連合(EU)欧州委員会は5月22日までに承認するかどうかを発表し、米連邦取引委員会(FTC)は8月に判断を下す見通しだ。
もっとも投資家は希望を完全に捨ててはいない。アクティビジョンの株価は26日午前段階で10%余り下落して77ドル前後と、マイクロソフトが提示した1株当たり買収額の95ドルを大きく下回った。だが「ストックス・グローバル・ビデオ・アンド・Eスポーツ指数」は、マイクロソフトが買収に乗り出した前日の昨年1月17日以降に25%下落しており、アクティビジョン株が単純に同指数と同じ軌道をたどったと仮定すれば株価は50ドル割れしていることになる。
いずれにしても今回のCMAの決定により、英国は世界の独占禁止法運用者の間で強力なプレーヤーとしての地位を確立した。ある調査によれば、過去20年間に巨大IT企業が手掛けた800件余りの買収案件のうち、完全に阻止されたのはメタのジフィー買収しかない。これは巨大IT企業が買収ではなく、独力で事業を拡大しなければならなくなるというサインでもある。
●背景となるニュース
*英競争・市場庁(CMA)は26日、マイクロソフトが690億ドルでアクティビジョン・ブリザードを買収する計画を認めないと発表した。マイクロソフトがアクティビジョンの人気ゲーム「コールオブデューティ」を他の有力プラットフォームでも利用できるようにすると約束しただけでは、クラウドゲーム市場の競争阻害懸念への十分な対応策にはならないとの見解を示した。
*マイクロソフトはアクティビジョンを買収する意思は変わらないとし、この決定に異議を申し立てる方針を表明。アクティビジョンは、CMAの判断は英国をハイテク分野の起業にとって魅力ある場所にしていくという政府方針と矛盾しており、経済の先行きが暗くなる一方の国民にとっても有害だと主張した。
*欧州連合(EU)欧州委員会は5月22日までに、この案件を承認するかどうか決定する見通し。米連邦取引委員会(FTC)は買収阻止を目指している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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