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コラム

コラム:国境炭素税は機能するか、西側の雇用流出防ぐ側面も

「ワシントン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 地球温暖化対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税(国境炭素調整措置)」という発想が、欧州連合(EU)と米国で地歩を固めつつある。一見すると気候変動問題との戦いで、1つの勝利を得たようだ。しかし、実はこうした政策には、企業の経営コストが高い国と低い国の競争条件を等しくし、先進国が雇用や投資を維持するのを支える働きもある。

 地球温暖化対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」という発想が、EUと米国で地歩を固めつつある。写真はジョージア州ジュリエットの石炭火力発電所。2017年4月撮影(2021年 ロイター/Chris Aluka Berry)

<国境炭素税とは>

バイデン米大統領と欧州諸国のトップは、環境規制が緩い国からの輸入に対して事実上の関税を課すことを検討している。同時に国内のサプライヤーには、輸出の促進を目的として、温暖化対策の違いによる価格差を調整するための還付金を支払う計画だ。

EU欧州議会は今月、こうした計画の策定作業を進めることを承認。今夏に詳細を詰め、2023年までに試験運用を開始する見通し。ただ、この制度の導入を巡って域内に意見の対立もあり、最終案の承認時期ははっきりしない。

片やバイデン氏は、より制約が少ない。現政権は国境炭素税を2021年の通商政策課題の1つに挙げており、炭素集約的な製品が国家安全保障上のリスクだとみなされた場合、バイデン氏は一方的に国境炭素税を課すことが可能となる。これはトランプ前大統領が鉄鋼やアルミに輸入関税を課したのと同じ論法だ。

<国境炭素税の実体>

気候変動は重要な政治課題であり、特にバイデン氏にとって大きな意義を持つ。しかし、国境炭素税は事実上、企業への課税や、低賃金の諸外国への企業移転を阻止する取り組みなど、気候変動と次元が異なる政治的な議論へとつながっている。

西側諸国は、環境規制が緩く、製品を安く作れるという理由で企業が大挙して中国やインドなどへ移転することを望んでいない。国境炭素税を導入すれば、こうした国で作られた製品はコストが上昇し、製造拠点や雇用を海外に移す動機は弱まる。

国境炭素税は国内企業の輸出も後押しする。厳しい環境規制などの理由で製品の価格が上昇する国内企業に対しては、輸出の際に税還付が行われることになりそうだ。こうした措置により国内勢は、海外市場で競争上の不利が小さくなる。だからこそ、米国の鉄鋼メーカーや労組などが国境炭素税を支持している。

どの国が国境炭素税を導入するかを考える上で、温室効果ガス規制を巡る制度の違いを考慮しなければならない。欧州議会は国境炭素税を排出枠取引制度と結びつける方式を提唱。ある国の環境規制が不十分な場合、その国からの輸入品に対して、排出枠購入価格に相当する税を課すという仕組みだ。

米国にはEUのような排出枠取引市場は存在せず、そうした制度導入を巡って議会で超党派の支持を得るのが難しいだろう。シンクタンクの「リソーシズ・フォー・フューチャー」は、企業の排出量評価に代わる対応として温室効果ガス指数を提案している。2016年の原油・原油関連製品でみると、米政府が輸出に与える税還付は約200億ドル、輸入に対する課税は約400億ドルとなる計算だ。

<機能するか>

理論的な矛盾はなく、環境を悪化させている国に対価を払わせる適切な手法のように見える。しかし、中国はトランプ前政権時代に繰り広げられた貿易戦争と同様に、報復措置を講じてもおかしくない。米国が透明性のある排出枠取引制度でなく、同等の効果があると主張して規則や規制に頼れば、中国は不当だと抗議するだろう。

輸入コストの上昇で打撃を受ける企業からも、反発を受ける可能性もある。ボストン・コンサルティングがEUの提案している国境炭素税制度に基づいて試算したところ、例えば、自動車メーカーや建設会社など熱間圧延平鋼を使っている企業は、年間利益が平均40%落ち込みかねない。

もう1つの問題は、ある地域が単独で導入するか、方針が似ている他の地域と歩調を合わせるのかという点だ。フランスのルメール経済・財務相は先に、米国と欧州は混乱を避けるために国境炭素税で協調すべきだと述べた。

もっとも協調的なアプローチは、希望的観測と言えるのではないか。租税回避地への税収の流出や、顧客や経営幹部、利益がそれぞればらばらの国にちらばっているインターネット関連企業向け課税配分をどうするかといった課題についての議論の推移から判断すれば、本当の意味での競争環境の公平化という目標は、達成するのがかなり難しい。

しかし、他の経済障壁でも米国が動けば他の国はすぐに追随したように、もし、バイデン氏が前進を決断すれば、国境炭素税が世界的に普及する公算は大きい。

●背景となるニュース

*フランスのルメール経済・財務相は10日、米国と欧州は国境炭素税に関するそれぞれ政策を調整するため協議を行うべきだと述べた。パリを訪れた米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)との共同記者会見での発言。

*ルメール氏は、米国と欧州は共通の規則を導入すべきで、さもないと混乱が生じると述べた。欧州連合(EU)欧州委員会は6月に国境炭素税の詳細を公表する見込み。

*米通商代表部(USTR)が3月1日に公表した2021年の通商政策年次報告書によると、USTRは温室効果ガスを削減する取り組みの一環として国境炭素税を検討する方針。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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