for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up
コラム

コラム:G7結束が最善の中国抑止策、依存引き下げと防衛力強化の加速を

[ギリシャ 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ホメロスの「オデュッセイア」を基にした「スキュラとカリュブディスの間」はどちらの道を選ぶか判断が困難であることを指すことわざだが、広島で今月開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、中国に関して同じような状況に置かれていると感じられるかもしれない。台湾を中国に侵攻してほしくないが、同国との戦争も避けたい。

 ホメロスの「オデュッセイア」を基にした「スキュラとカリュブディスの間」はどちらの道を選ぶか判断が困難であることを指すことわざだが、広島で今月開かれるG7サミットでは、中国に関して同じような状況に置かれていると感じられるかもしれない。写真は中国の習主席。北京で4月代表撮影(2023年 ロイター)

この2つの「怪物」の間で舵を操る最善の方法は、G7が強力な抑止戦略で合意することだ。そうすれば中国の習近平国家主席は台湾への侵攻に消極的になるかもしれない。そうでなければロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に当たって西側が弱すぎると誤って判断したように、習氏はG7の分裂を利用できると考えるかもしれない。

<ユーラシアは一つの大陸>

米国のアジアの同盟国に断固とした姿勢のメリットを説得する必要はないだろう。しかし、欧州の指導者の中には疑念を抱いている者もいる。フランスのマクロン大統領は先月、欧州連合(EU)が台湾を巡る危機に巻き込まれないよう警告を発した。

習氏がウクライナ戦争直前にプーチン氏と「制限なし」の友好関係を宣言して以来、欧州とアジアは地政学的に一つの広大な大陸になった。

中国が武力で台湾を併合すれば、日本や韓国など他のアジア諸国は脅威を感じるだろう。中国がこの地域の覇権国になりかねない。台湾への侵攻が成功した場合、米国は孤立主義に陥るか、ウクライナから中国に目を向けるか、いずれかの反応を示す可能性がある。

中国はまた、ロシアへの武器供与に勢いづくかもしれない。そうなれば欧州にとって恐ろしい話だ。

<2つの加速>

G7各国が抑止の必要性に合意できたなら、次にそれを達成するための効果的な戦略を立案する必要がある。それは中国への依存度引き下げと防衛力強化の両方を加速させることだ。

イエレン財務長官を含む米高官は最近、経済の「デカップリング(分断)」とは対照的に、中国へのエクスポージャーを「デリスキング(リスク低減)」する政策を求める欧州に賛同している。

また、米国は中国が先端半導体など軍事的に有用な技術を獲得するのを阻止するため同盟国に働きかけている。中国と米国およびその同盟国の軍事的格差が縮まるのを防ぐことができれば、それも侵略の抑止になり得る。G7が冷戦時代のココム(対共産圏輸出調整委員会)のように、輸出管理に関する行動を調整する事務局を設置すればより効果的だろう。

G7各国は軍事力強化に向けた既存の計画を加速する必要もある。これは米国とアジアの同盟国だけでなく、欧州諸国も同様だ。欧州の防衛力を強化することで、米国の焦点はより東方に向けられる。

米国が欧州から目をそらすべきと言っているわけではない。結局のところ、中国を抑止する唯一の最良の方法はウクライナがロシアを撃退するのを支援することだ。

<コンティンジェンシープラン>

G7の抑止戦略のもう一つの柱は、中国が台湾に侵攻した場合にどうするかというコンティンジェンシープラン(不測の事態を想定した緊急対応策)だ。

一つの選択肢は徹底的な経済制裁だろう。しかし、これは賢明ではないかもしれない。中国との関係を急速に断ち切った場合の経済的、財政的コストはG7にとっても、そして他の国々にとっても恐ろしいものになる。例えば、米国とその同盟国が対ロシアと同じように中国の3兆2000億ドルに及ぶ外貨準備を凍結すれば、中国は外国人が保有するほぼ同額の国内資産を没収することで対抗できる。

もちろん、中国が医薬品の製造に必要な原薬といった重要物資の供給を停止すれば、G7は報復をしなければならないだろう。しかし、中国にはデカップリングによる痛みに耐えられるだけの力があるかもしれない。したがって、侵略に対抗して全面的な経済戦争を起こさないという戦略であればG7内のコンセンサスを得ることはより容易になりそうだ。

バイデン米大統領も、同盟国を納得させるために、戦争は最後の手段であることを明確にする必要がある。緊張が高まった際に米国がどのように対応するかについて、コンセンサスを得ることが理想的だ。

例えば、中国による台湾封鎖シナリオが取り沙汰されている。米国は封鎖を突破するため全面戦争を引き起こす可能性があるのだろうか、それとも1948年のソ連によるベルリン封鎖時のように、米国と同盟国が台湾に物資を空輸するのだろうか。

中国による台湾占領というスキュラと、紛争というカリュブディスの間を航行するのはコストゼロではないだろう。G7は最低でも防衛とサプライチェーン(供給網)確保に多額の資金を投じなければならなくなる。

オデュッセウスは何人かを失った。しかし、少なくとも彼の船と乗組員の大半は生き残った。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up