[香港 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国で始まったアウトドアブームが、絶好の商機になる可能性を秘めている。ロックダウン(都市封鎖)に疲れ果て、同時に新型コロナウイルスの感染を恐れる中間層の人々は、こぞってゴアテックス素材の衣類を身につけ、森の中で寝泊まりしつつある。ブランドメーカーにとっては、急成長する高級アウトドア用品市場で稼ぐチャンスだ。
米国人は何年も前から、泥や虫などを我慢してもおつりが来るほど素晴らしい屋外の食事や夜空の光景を満喫してきた。そして、新型コロナウイルスのパンデミックを経てこうした体験をする中国人も増えている。
国営メディアによると、4月の清明節の週末に悲劇的なロックダウンが重なった時期には、旅行者の5人に3人が休みを過ごすために田舎に向かった。中国版インスタグラムの小紅書は、「グランピング」体験やそれに類するワードの検索数が750%も増えたと伝えている。
毎年6月に電子商取引業界が実施する「618商戦」では、キャンプ用品が盛んに購入された。この消費の波は非常に大きく、吉利汽車は自然派志向の顧客向けに新たな電動ピックアップトラックをお披露目し、関連付属品を開発するためにアウトドア用品を手がけるネイチャーハイクと提携する方針を打ち出したほどだ。中国でRV車の販売は2018年以降ずっと増え続けており、豪華テント施設や電源完備型などさまざまなミニキャンプ場も都市近郊に次々誕生している。
中国のウィンタースポーツは、北京冬季五輪を前に習近平国家主席の大号令という「上から」の働きかけで盛んになった。逆にキャンプは一般大衆による「下から」の流行だ。キャンプ場はスキーリゾートなどより気軽に行ける点からも、自ずとより幅広い消費者層を生み出しつつある。
米国ではアウトドア関連の年間売上高は約7000億ドル(96兆6000億円)に達する、というのが業界団体の試算だ。一方、iiメディアリサーチ(艾媒諮詢)は、今年の中国のキャンプ市場規模はまだおよそ50億ドルにとどまるとみている。
ただ、市場がこのまま2桁の伸びを維持するなら、VFコーポレーション傘下のザ・ノース・フェイス、コロンビア、ケルティといったアウトドア企業の収益を押し上げてもおかしくない。ハイキング用ブーツや携帯ストーブなどを販売する仏デカトロンも、既に中国にしっかり足場を築いている。
もちろん「野性的」なキャンプは誰にでも合うわけではない。そこで中国でも今後、よりサービスが行き届いた高級なキャンプ体験も消費される余地が出てくる。彼らのキャンプ回数が増えるほど、暖かいベッドや耐水性テントが高く評価されるだろう。オリバー・ワイマンの調査で中国本土の全般的な高額商品市場がわずか3%の伸びになると見込まれている時期だけに、この流れは高級ブランドにとって追い風だ。中国のアウトドアレジャー分野に商売の種を追い求める動きが、はっきりと見えてきた。
*1ドル=138円で換算
●背景となるニュース
*中国電子商取引業界で毎年恒例となっている6月の「618商戦」では、キャンプ用品が最も売れ行きが良かった商品の1つだった。
*自動車メーカーの吉利汽車は今月12日、自然派志向の消費者を対象とする新型の電動ピックアップトラックを公開した。また、同社の電気自動車(EV)ブランド「RADAR(レーダー)」は、アウトドアのライフスタイルに焦点を当てた新たなブランド車の開発を行うとともに、これらの車向けの付属品をそろえるためにキャンプ用品を手がけるネイチャーハイクと提携する方針を示した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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