[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 13世紀が終わろうとする頃、マルコ・ポーロは中国からベネチアに紙幣という新しい概念を持ち帰った。そして今、中国人観光客がイタリア全土に金を落としている。
旅行調査会社フォワードキーズによると、5月から8月にイタリアを訪れた中国人観光客は、前年同期比31%増加した。アジアからの観光客の数としては最も大きな伸びだ。
イタリア人気が突如盛り上がったのは、中国人の間でルネサンス時代の絵画に対する関心が急に高まったからではなく、政治が作用している側面が大きい。
イタリアは3月、中国とインフラ投資に関する覚書に調印し、主要7カ国(G7)で初めて、中国の「一帯一路」計画に参加した。習近平国家主席肝いりのこのプロジェクトは、かつてマルコポーロが旅したシルクロードを21世紀によみがえらせるものだ。
中国とイタリアは、エネルギーや農業などの取り決めに加え、2020年を両国の文化・観光の年にすると宣言。中国からイタリアへの直行便が増え、イタリアのビザ承認ペースが加速したことから、中国人にとってはイタリア行きの魅力は一段と高まった。
財政が苦しいイタリア政府には追い風だ。国内総生産(GDP)の13%を占める同国の観光業は、中国人の団体旅行でその比率が一層高まるだろう。
イタリアには、さらに多くの中国人を呼び込む余地がある。フォワードキーズのデータによれば、海外へ出る中国人のうち、イタリアに行くのは1.9%に過ぎない。マッキンゼーは、中国人が2020年に海外旅行で支出する金額は3150億ドルと予測する。合計の旅行回数は1億6000万回で、1回当たり平均2000ドル弱の消費が見込まれるという。
中国の海外旅行は単なる個人の楽しみというわけではなく、むしろソフトパワーを追求する政府の道具の1つだ。中国共産党は、新しい友人にはさまざまな援助を提供する半面、自分たちの意向に背くとみなす振る舞いには相応の罰を下す。
だからトランプ政権下で敵対的な米国を訪れる中国人は減少しており、中国が問題視する蔡英文政権の台湾についても、個人旅行の制限が観光客数に影響を与えるだろう。
もちろんイタリア国民は、中国人観光客が大挙して押し寄せるのを不快に思うかもしれない。いくら彼らの懐が豊かだとしても、だ。
それを止めるのはたやすい。何か中国政府を怒らせるようなことをすればいい。
●背景となるニュース
*旅行調査会社フォワードキーズがBREAKINGVIEWSに提供したデータによると、5月1日から8月10日までにイタリアを訪れた中国人観光客は前年同期比で31.1%増加した。
*フォワードキーズのデータでは、中国人観光客の海外訪問先トップは日本で前年比26.8%の伸びを記録し、全体の20%近くを占めた。米国を訪れたのは全体の7.5%で前年比1%減った。
*マッキンゼーは、中国人の海外旅行者の支出が来年、総額3150億ドルに拡大すると予測した。
*中国は8月1日以降、本土の47都市の住民が台湾に個人旅行をすることを禁止している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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