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コラム

コラム:ウクライナの戦後復興、ブレイディ債の導入検討を

[ニューヨーク 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ロシアのウクライナ侵攻から約11カ月、ウクライナは国家と国民が信じがたい悲劇に見舞われている。連日のミサイル攻撃は死をもたらす一方で、ウクライナの回復力と不屈の精神を浮き彫りにした。ウィンストン・チャーチルの言葉を借りれば、今は「始まりの終わりであり、まだ終わりの始まりではない」。それでもウクライナの新たな始まりに目を向けるべき時が来ている。

 1月11日、ロシアのウクライナ侵攻から約11カ月、ウクライナは国家と国民が信じがたい悲劇に見舞われている。ウクライナ・キーウ近郊のボロディアンカで2022年4月撮影(2023年 ロイター/Zohra Bensemra)

連合国が1944年にブレトンウッズで第二次世界大戦後の経済秩序に備え始めたように、ウクライナ、米国、欧州連合(EU)、英国の政策当局者は紛争が終わる前に、ウクライナ再建計画という複雑かつ必須のプロセスに着手しなければならない。その際には1980年代に中南米の債務危機を食い止めた金融の革新的な手法「ブレイディ債」を採用すべきだ。

ウクライナ再建策の立案と実行に際しては、米国とバイデン米大統領の姿勢が鍵を握るだろう。米国が主導し、欧州の同盟国が参加する「21世紀型マーシャルプラン」が必要で、再建と復興の資金を直接拠出することが不可欠になる。ウクライナの指導者は自国防衛という重荷を背負っているが、同時に、銃声が消えた後に不可欠な復興資金・支援の大枠を描くための多国間協議に注力する必要がある。

その必要性は甚大で、しかも日に日に増大している。昨年8月に発表された世界銀行の推計によると復興費用は3490億ドルに上り、今も増えている。こうした費用の一部は国際的な開発銀行から調達することが可能だ。例えば欧州復興開発銀行(EBRD)はウクライナで520件のプロジクトを手掛けており、今後も重要な役割を担うだろう。しかしこうした機関がすべての負担を担うことはできない。

鍵を握るのはEUで、その資金支援は既存の方法によるか新たな機関を通じるかより、金額の方が重要だ。迅速な復興を怠れば結局は欧州の負担が大きくなるため、相当な額を持続的に提供する必要がある。

凍結されたロシア中銀の準備資産をウクライナ復興に充てる仕組みも検討されている。凍結資産は巨額だ。中銀のデータに基づく計算によると2021年末時点のロシア中銀の海外保有外貨建て資産はフランスが620億ドル相当、日本が590億ドル相当、ドイツが990億ドル相当、米国が400億ドル。ただこの仕組みには国際法の面で大きな障害があり、まだ答えが出ていない。

民間債権者もまた重要だ。昨年8月には、ウクライナの外債200億ドルの債権者のうち約75%が利子と元本の支払いを2024年まで猶予した。良いスタートではあるが、十分ではない。過去の教訓を生かし、債務再編協議を開始すべきだ。具体的に言えば、ウクライナ政府はブレイディ債に相当する仕組みを検討する必要がある。

ブレイディ債はニコラス・ブレイディ元米財務長官の名を冠した債券。債務再編交渉の一環として各国の既発国債を、長期米国債を担保とするドル建て債に置き換えるものだ。償還期限は通常25年か30年。債務国は恒久的に金利を軽減され、借り入れコストの変動から身を守ることができた。債務国のソブリン債負担を軽減することで、景気回復と経済成長を支援した。

ブレイディ債は1989年に初めて合意が成立し、最終的に中南米、アジア、アフリカ、東欧の17カ国が発行。計1600億ドルをカバーし、債務水準を35─40%圧縮した。ウクライナが同様の救済を受けるには米国をはじめ主要国の財務相が新たなブレイディ債を支持する必要がある。ウクライナと米国の財務省はこの可能性についてすぐに協議を始めるべきだ。

ウクライナの指導者は、追い風が吹き、ロシアとプーチン大統領との戦いに対して民主主義諸国の支援があるうちにチャンスをつかむべきだ。シンクタンクのハインリッヒ・ベル財団が実施した最近の調査も、「債権国政府側に明確な政治的意志さえ生まれれば、債務救済のための行動はすぐに実行に移される」と指摘した。再建策の具体的な規模や構成がどうであれ、主要7カ国(G7)の同盟国は国際金融機関と連携し、ウクライナと協力して戦後復興のあり方を考えるべきだ。

冬を迎えたウクライナは地面が凍り、ミサイルが炸裂、停電が起きており、はるか地平を見渡すのは難しいかもしれない。しかしウクライナの指導者は米国やその同盟国とともに、戦後の未来の輪郭に目を向けなければならない。この課題は危急ではあるが、ウクライナと民主主義諸国が共通の目標に向かって共に行動すれば達成は可能だ。

・William Rhodes氏はWilliam R. Rhodes Global Advisorsの社長兼最高経営責任者(CEO)。「Banker to the World」の著作がある。

・Stuart Mackintosh氏はthe Group of Thirtyのエグゼクティブディレクター。

(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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