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コラム

コラム:価格競争力で勝る中国EV、守勢強いられる欧州勢

[ロンドン/香港 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - フォルクスワーゲン(VW)やBMWといった欧州自動車メーカーにとって、これまで大事な収益源だった中国が、次第に脅威の存在へと変わりつつある。中国電気自動車(EV)業界をけん引している比亜迪(BYD)などは、一段の成長を求めて外国市場に狙いを定めている。特に欧州は、彼らにとって守りが手薄で攻めやすいとみなされているようだ。

 2月1日、フォルクスワーゲン(VW)やBMWといった欧州自動車メーカーにとって、これまで大事な収益源だった中国が、次第に脅威の存在へと変わりつつある。写真は2022年11月、バンコクで開催されたエキスポに展示されたBYDのEV「ATTO3」(2023年 ロイター/Athit Perawongmetha)

コンサルティング会社・イノベブによると、2022年の段階で欧州自動車市場における中国メーカーのシェアは既に9%と前年の倍近くに上昇し、そのペースは加速を続けている。比亜迪以外にも、上海汽車集団(SAIC)が所有するMG、小鵬汽車、ボルボを傘下に置く吉利汽車などが欧州での事業強化に目を向けている面々だ。実際、吉利汽車は今年1月、EVブランド「ジーカー」などの販売拡大に向けた詳細な計画を示した

中国自動車メーカーには、数多くの有利な材料がある。近年では西側ブランドが中国で市場シェアを低下させ、規模のメリットや研究費用などの分野における効率性で中国勢に対する劣勢を強いられている。

中国勢は、世界最大のバッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)を含めた国内の膨大なサプライチェーン(供給網)を活用できる強みもある。CATLはバッテリー交換や、リン酸鉄リチウム電池といった革新的技術を提供してくれる。

小鵬汽車などは、品質面で西側の最有力ブランドと互角の勝負を挑もうとしており、走行距離の長さやエンターテインメント方面のソフトウエア充実を盛んに宣伝している。

また、多くの消費者にとって魅力があるのは、割安な価格だろう。西側メーカーは、販売価格に反映させるバッテリー搭載コストが膨らみ続けている。その一方で、中国勢は2015年から22年前半までの間に国内のEV販売平均価格を半減させたことが、コンサルティング会社JATOダイナミクスのデータで分かる。

中国勢の方が経営効率性が高く、欧州でバッテリー搭載コストが増大しているとすれば、必然的に中国勢は欧州へ猛烈な輸出ドライブをかけ、競争を仕掛けられる。EV1台当たりでみると、中国メーカーは西側よりも平均1万ユーロ(141万円強)も安く製造できる。

こうした新たな競争の波は、米国でテスラとフォード・モーターが主導して既に火ぶたを切った値下げ合戦をさらに激化させるとみられる。

とりわけ欧州は、その波をもろにかぶりそうだ。米国の場合は、消費者が大型車を好む傾向や、昨年成立したインフレ抑制法の下での補助措置が国内メーカーに恩恵をもたらす。

では、欧州各国は、脅威にさらされた域内メーカーを守り、輸入を抑えるためにはどうするか。対応策としては、特別に高額な関税を課すか、域内メーカー向けの補助措置を拡充することが考えられる。

ところが、ここで欧州各国は自縄自縛に陥る。2035年までに内燃エンジン車の新車販売を段階的に禁止したいのであれば、割安なEVの大規模な供給が不可欠になるからだ。JATOの見積もりで1台当たり5万6000ユーロという域内のEV販売価格はなお、大半の購入希望者にとって高過ぎる。

その上、高額の関税を設定して貿易戦争に突入しても、その結末は予測できない。中国における製造コスト低下のおかげで、中国勢は関税の負担を吸収してしまえるかもしれないし、欧州勢は報復措置に苦しめられる恐れが出てくる。

例えば、VWは22年の納車台数の4割近くを中国が占める。ルノーやBMWなどは中国に生産拠点があり、海外に輸出している。

結局のところ欧州勢は、より小さくなった域内のシェアを奪い合うだけでなく、値下げも迫られて、収益を悪化させるのではないか。イノベブは、30年までに中国勢が欧州EV市場の20%を握り、欧州ブランドは21年に66%だったシェアを45%まで下げるとみている。

欧州勢にとって、新型コロナウイルスのパンデミックは追い風になってくれた面がある。RBCのアナリストチームの試算に基づくと、VWは過去3年間で販売価格を平均で約10%引き上げた。だが、中国勢の脅威が増している中で、これから収益を削られる時期が始まろうとしている。

●背景となるニュース

*中国汽車工業協会(CAAM)によると、中国の2022年自動車輸出台数は311万台で前年比54.4%増加した。

*電気自動車(EV)を含む新エネルギー車輸出は前年比120%増となった。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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