for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up
コラム

コラム:FRBとECBの「別離」、投資家が利益を得るには

[ロンドン/ワシントン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - この半年間、足並みをそろえて利上げを進めてきた米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が別々の道を歩もうとしている。米経済がぐらついている一方、ユーロ圏経済が意外な底堅さを見せているためで、ECBは主要国中央銀行の中で「唯一のタカ」になる可能性が出てきた。投資家はユーロと欧州株に投資することで、この別離から利益を得られるかもしれない。

 この半年間、足並みをそろえて利上げを進めてきた米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が別々の道を歩もうとしている。写真はイメージ。2022年7月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

ECBは昨年7月21日、2011年以来初めての利上げを決定。3月から利上げに着手していたFRBと手を携えた。

その後、政策金利を決める会合ごとに両中銀は追加利上げを行い、タカ派的な声明を発表。欧米の株価は下落した。

しかし先週、FRBとECBの二人三脚は終わりを告げた。両行ともに利上げは実施したが、米国と欧州の経済環境は異なっていた。FRBが25ベーシスポイント(bp)の利上げを決めた後、パウエル議長は最近のインフレ率低下傾向を「歓迎」するとし、リセッション(景気後退)や高失業率を招くことなくインフレを退治できるとの道筋を示した。

議長のトーンが変化したのは、米経済に息切れの兆しが出ているためだ。12月の消費支出は過去2年間で最大の落ち込みを示し、雇用は1月こそ予想外に強かったとはいえ、過去6カ月のうち5カ月で就業者数の伸びが減速している。

一方のECBは50bpの利上げを実施し、3月についても同幅の利上げを約束。その後も利上げを続ける方針を示している。

リフィニティブのデータを見ると、市場ではECBの中銀預金金利が6月に3.5%に達し、少なくとも来年2月まで同水準にとどまると予想されている。これに対してFRBの政策金利は5月に5―5.25%でピークを迎え、11月には利下げに転じるというのが市場の予想だ。

両行の差は、出発地点の違いによる部分もある。ECBはFRBよりも利上げ開始が4カ月遅かっただけでなく、マイナス金利からの出発だった。この結果、FRBの方が物価目標の達成に近づいている。経済協力開発機構(OECD)は、米国のインフレ率を今年3.9%、ユーロ圏を6.8%と予想している。

しかし、欧州経済が驚くほど底堅さを見せているのも事実だ。ユーロ圏の域内総生産(GDP)は昨年第4・四半期に前期比0.1%増と予想外のプラス成長となり、昨年の成長率は3.5%に達した。天然ガス価格の下落、暖冬、政府による潤沢な家計支援に加え、主要な輸出市場である中国経済の再開により、今年リセッションに陥る確率が低下した。

対照的に米経済の見通しは暗い。UBSは、米経済がマイナス成長に陥る確率を100%と予想しているが、ユーロ圏については同確率が10月時点の60%から26%に下がったとしている。

もちろんインフレの行方は非常に不確実性が高く、両中銀とも政策の軌道が今後変わる可能性はある。ユーロ圏はECBの利上げの影響でリセッションに入る恐れも残っている。

しかし市場は今のところ、こうした暗めのシナリオを無視し、利上げサイクルの終了に焦点を絞っている。1月は欧米ともに株価が上昇し、国債利回りが低下した。

欧米で経済と金融政策の方向性が分かれつつあることを考えれば、このような「何でも上昇」相場が続くとは考え難い。自然に考えれば、最も勝ち組になりそうなのは通貨ユーロだ。ECBが昨年7月に利上げを開始する前日、欧米の金利差は225bpだったが、今年11月までには150bpに縮小する可能性がある。金利差は為替レートを動かす主要な要因だ。

市場は既にこの傾向を織り込んでいる部分もある。ユーロは過去3カ月間でドルに対して7%上昇し、現在は1ユーロ=1.07ドルとなっている。しかしドイツ銀行のアナリストチームは今年1.15ドルまでの上昇を予想。ユーロ高は輸入物価を抑制し、ECBによる追加利上げの必要性を低下させる効果もある。

欧州株買いは、ユーロ買いほどシンプルに有利だとは言えない。米国株は、利上げ終了間近との期待で上昇しているからだ。しかし米国がリセッションに陥れば企業収益も投資家心理も悪化するだろう。

欧州株は米国株より割安でもある。ゴールドマン・サックスによると、STOXX欧州600指数は今後1年間の予想利益に基づく株価収益率(PER)が13倍と、米S&P500種総合指数の18倍を大幅に下回っている。この差は長期的な中央値よりも25%ほど大きい。

その上、ゴールドマンによると欧州企業の売上高に占める海外比率は約60%と、米大企業の約40%よりも大きいため、世界経済見通しの改善によって恩恵を受けやすい。欧州株式市場の方が金融、鉱工業、エネルギー、消費者向けなど「バリュー株」の比重が大きい点も有利だ。こうした企業は傾向として高配当である上、景気サイクルに敏感なため経済が好転する時に相場上昇を主導することが多い。

パウエルFRB議長とラガルドECB総裁が別れを告げた今、投資家は欧州の「孤独なタカ」に徐々にひきつけられて行くだろう。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up