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コラム

コラム:FRBの「柔軟な物価目標」、わずか2年で自ら幕引き

 「柔軟な平均インフレ目標(FAIT)」よ、安らかに眠れ――。米連邦準備理事会(FRB)は15日に終わった連邦公開市場委員会(FOMC)で、物価高騰に対応して政策金利を75ベーシスポイント(bp)引き上げた。米首都ワシントンで撮影(2022年 ロイター/Elizabeth Frantz)

[ワシントン 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「柔軟な平均インフレ目標(FAIT)」よ、安らかに眠れ――。米連邦準備理事会(FRB)は15日に終わった連邦公開市場委員会(FOMC)で、物価高騰に対応して政策金利を75ベーシスポイント(bp)引き上げた。1回の利上げ幅としては1994年以来の大きさだ。これでインフレが封じ込められるとは限らない。だが、パウエル議長が2年前、誰も取り残されない形で雇用が増えるのを目的に導入したFAITという新たな政策運営の枠組みは、事実上葬り去られる。

結局のところ、パウエル氏の動きを左右したのは物価上昇だった。5月の時点で、パウエル氏はインフレを抑制するには着実に50bp刻みの利上げを行うのが好ましいと発言していた。しかしその後、5月米消費者物価指数(CPI)前年比上昇率が8.6%と、1981年以来の高い伸びとなったことが判明。ニューヨーク連銀が13日公表した調査では、一般の人々の1年後の予想物価中央値が切り上がった。

こうなった以上、FAITは維持不能に陥った。パウエル氏はFAITを導入した2020年、物価上昇率が何年も目標の2%を下回り続けたので、新しく柔軟な政策運営の方法に切り替えると宣言。しばらく物価上昇率が2%を超えたとしても、政策金利をゼロ近辺に据え置けるとされる仕組みを生み出した。その狙いは経済において、景気拡大の恩恵が最も届きにくく、従来の金融政策で個別に配慮ができなかった黒人労働者などのグループにも、十分な雇用が確実に創出されるようにすることだった。

しかし前のめりの利上げに乗り出した今、これらの労働者は再び見捨てられる危険が出てきている。5月の黒人の失業率は6.2%と、全体の3.6%や白人の3.2%を大きく上回った。そしてFRBの最新見通しに基づけば、失業率自体も今後数年で上昇してしまう。さらに先のニューヨーク連銀調査を見ると、学歴が高卒以下の人々の間でこれから借金を期限通り返済できなくなるとの見通しが強まった。このように全体から置いて行かれたままになる人たちをどう支援するのが最善かを決めるのは、もはや中央銀行当局者ではなく、政治家の仕事になっていくだろう。

それでもパウエル氏にも、2%の物価上昇率目標を見直す余地はまだ残っているかもしれない。FRBがこの目標をずっと達成できていないのは確かだが、新型コロナウイルスのパンデミックや貿易戦争、ロシアのウクライナ侵攻でサプライチェーン(供給網)と支出パターンが恒久的に変わったのかもしれない。FRBによる最新の今年10-12月期物価上昇率予想は5.2%と、3月段階から切り上がった。だとしても、物価の長期的な落ち着きどころがはっきりするまで、あらゆる種類の新機軸は手を付けないのが最も適切だ。

●背景となるニュース

*米連邦準備理事会(FRB)は15日に終わった連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を75ベーシスポイント(bp)引き上げて誘導目標を1.5-1.75%とした。1回の利上げ幅としては1994年以来の大きさ。今年に入って利上げは3回目だった。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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