[ワシントン 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 現在の利上げサイクルにおける米金利のピークが、わずかながら高くなったようだ。米連邦準備理事会(FRB)理事の中で利上げに最も慎重だったブレイナード副議長が来週、国家経済会議(NEC)委員長に就くためにFRBを離れる。ブレイナード氏は、急速な金融引き締めは望ましくない結果をもたらす恐れがあると警告を発してきた。彼女が去ることで、FRBは利上げに邁進(まいしん)しやすくなるだろう。
ブレイナード氏は最近の利上げに賛成票を投じてきたが、公的な発言を聞く限り、他のFRB幹部らと考え方を異にするようだ。パウエル議長を含む大半の幹部は、労働需要の強さと賃金上昇に鑑みて利上げの必要性を主張してきた。これに対してブレイナード氏は、急スピードで利上げを実施すれば労働市場に害が及ぶと指摘。昨年10月の講演では、景気を減速させインフレを沈静化させるには「時間を要する」と述べ、過度な利上げにくぎを刺した。
しかし米経済指標はFRBに利上げを継続するよう迫っている。インフレ率は昨夏のピークからは下がったが、1月には低下スピードが鈍った。1月の失業率は1969年以来の低水準となった。市場は既に今年の利上げ回数が想定より増えることを織り込んでいる。CMEの「フェッドウォッチ」によると、先月は今後数カ月中に1回の利上げしか想定していなかったのが、今では25ベーシスポイント(bp)の利上げがあと3回程度実施されることを織り込んでいる。
FRB自体が公表している予想を見ても、ブレイナード副議長退任のインパクトはうかがえる。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの金利予想を示す「ドットチャート」の12月公表分では、19人中2人だけが今年の政策金利が4.9%で頭打ちになると予想していた。政策金利が2024年に3.1%に、25年に2.4%に下がると予想しているメンバーは1人だけだ。
もちろん、ブレイナード氏がFRBにとどまっていたとしても、FOMCの投票結果を大きく左右して利下げ転換を早めたり、追加利上げを控えたりさせるほどの影響はなかっただろう。しかしFRBが労働市場に照準を定めている今、彼女の退任によって、より辛抱強い金利戦略を主張する重要な人物が去ることになる。
●背景となるニュース
*バイデン米大統領は14日、国家経済会議(NEC)委員長にブレイナードFRB副議長を起用すると発表した。ブレイナード氏は20日付でFRBから退任するため、14日に辞表を提出した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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