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コラム

コラム:中国念頭の「フレンド・ショアリング」、併存する明暗

[ロンドン 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「1つのバスケットに全部のたまごを入れるな(特定の場所に全資源を集中するのは、リスクが大き過ぎるとの意味)」という格言は、投資と同じぐらい世界貿易にも当てはまる。

 1つのバスケットに全部のたまごを入れるな(特定の場所に全資源を集中するのは、リスクが大き過ぎるとの意味)」という格言は、投資と同じぐらい世界貿易にも当てはまる。写真は2021年10月、米カリフォルニア州ロングビーチで撮影したコンテナ船(2022年 ロイター/Alan Devall)

アップルの「iPhone」生産の多くを担う中国の工場での新型コロナウイルス対策を巡る騒動や、ロシアのウクライナ侵攻によって天然ガス輸入をロシアに依存していた欧州がはしごを外された状況を見れば、それは良く分かる。

これらの事態こそが、イエレン米財務長官が提唱している「フレンド・ショアリング」への期待が高まってきている理由だ。同盟国や友好国の間だけでサプライチェーン(供給網)を構築し、西側の調達環境が地政学的な脅威やその他の混乱によって悪化しないようするというこの構想は、欧州連合(EU)も支持。中国は中国で、西側の技術に過度に頼るのを避ける取り組みを進めている。

友好的とみなす国・地域に貿易関係を限定するリスクは、世界が全面的な冷戦へと移行し、2つのブロックに分断されかねないという点にある。そうなると世界経済が青息吐息にある局面で、全体の繁栄が阻害されることになる。世界貿易機関(WTO)の試算では、貿易の分断化で世界の総生産は5%押し下げられるという。

では、どうすればフレンド・ショアリングのコストを最小化しつつ、メリットを享受できるのか。そこには2つの基本原則が存在する。1つは中国たたきの手段として利用しないこと、もう1つは「友達の輪」を大きく広げることだ。

<攻撃的よりも防御的が妥当>

フレンド・ショアリングは、防衛手段と攻撃手段の両方に使える。前者に関しては、ある国が別の国からの攻撃的行動、もしくはパンデミックなどの予想外の事象に伴うサプライチェーンの混乱から身を守ることにつながる。

米政府高官によると、米財務省が提唱する根拠もまさにここにある。具体的には、企業に対してあまり信頼の置けない国に生産拠点を集中し過ぎるなと諭したり、同盟諸国に十分な需要を請け合った上で重要製品の供給を要請したりする展開が想定される。

逆に中国経済にダメージを与える目的でフレンド・ショアリングを行使するのは、筋の悪い考えと言える。

その理由としてまず、全面的な貿易戦争を引き起こし、せっかくフレンド・ショアリングで防ごうとした混乱を生み出す可能性が挙げられる。いくらサプライチェーンの分散化を叫んでも、中国経済は引き続き西側と密接につながっており、これらの関係を突然断ち切ればその代償も大きい。

次に、中国との地政学的緊張を高め、場合によっては本物の戦争に発展する恐れが出てくる。国際社会における覇権国と台頭してきた勢力がぶつかってきた歴史を踏まえれば、米国や他の西側諸国はわざわざ火種を大きくする愚は避ける賢明さを持ち合わせているだろう。

もちろん中国が西側にとって、プーチン大統領の下でのロシアのようにもはや和解が難しい敵対者となれば話は違ってくる。だが、先月のバイデン米大統領と中国の習近平国家主席の会談の様子からすれば、探り探りの緊張緩和を実現できるかもしれない。

ブルッキングス研究所のシニアフェローで元中国駐在外交官のデービッド・ダラー氏は、中国が台湾に侵攻すれば事情は異なるが、そうでなければ米国は中国への対応に関し、ロシアとは区別するのが適切だとの見解を示した。

フレンド・ショアリングを防衛的に使うとはつまり、戦略的物資に対象を絞ることを意味する。アトランティック・カウンシルのシニアフェロー、フン・トラン氏は、最近の論文で対象にすべき品目として、1)半導体、2)5Gインフラを含む通信機器、3)太陽光パネルやバッテリーなどの環境製品、4)医薬品原料、5)希土類(レアアース)などの重要鉱物資源――を掲げた。

そして、これらの分野では中国企業が強固な立場を築いている。例えば、太陽光パネル生産の80%強、太陽光パネルの部品に利用されるポリシリコン生産の95%強は、中国勢が担う。

こういったケースでも米国や同盟国は、中国勢を完全に排除するのではなく、あくまで十分な代替サプライヤーを確保すべきだ。選別的なフレンド・ショアリングを実行すれば、経済的なコストを限定できるし、複数のサプライヤーに生産先を分散化すると、現在の友好国との関係が将来変調をきたすというリスクもある程度回避される。

この理屈は、企業にも適用される。インドでのiPhone生産を拡大しているアップルを例に挙げれば、中国への依存を減らすのは合理的だが、それは決して依存度をゼロにするという意味ではない。

<友達を増やせ>

フレンド・ショアリングという表現から浮かび上がってくるのは、米国は強力な同盟関係にある主として北大西洋条約機構(NATO)加盟国やインド太平洋地域の日本、韓国、オーストラリアとの間だけでサプライチェーンを構築すべきという方針かもしれないということだ。つまり西側の対ロシア制裁への参加を拒み、ロシア産原油購入を増やしているインドは、敬遠するということになる。

しかし、この姿勢は愚かだろう。米国や同盟国が友好相手の範囲を狭めれば狭めるほど、自分たちの経済への打撃も大きくなる。幸いなことに米財務省は友好の定義を幅広く設定し、先月にはイエレン氏がインドでフレンド・ショアリングの政策的な効力をアピールしている。

理想的な展開は、先進国が中国依存を減らすのに伴って世界各地との貿易を強化していくことだ。環境製品の増産につながる新たな貿易・投資協定を結べば、同時にエネルギー移行を促進し、中国がこの分野で持つ強みを幾分打ち消せる。

その意味で、貿易は貧困国を発展から取り残さないための手段になる、というWTOのオコンジョ・イウェアラ事務局長の主張は正しい。問題は、米国が新たな貿易協定締結に極めて消極的なことにある。

米国における保護主義的なムードは、特にトランプ前大統領の時代に色濃くなった。だが、バイデン政権が今年8月に成立させたインフレ抑制法にも、電気自動車(EV)などへの保護主義的な補助措置が盛り込まれた。もっともバイデン氏自身は、この措置とフレンド・ショアリングの間に矛盾があると承知しているようだ。

フランスのマクロン大統領が先週の訪米時に苦情を述べると、バイデン氏は欧州の同盟諸国を補助措置の対象から外さないようにルールを「修正」すると約束した。

保護主義は単にフレンド・ショアリングの理論を損なうだけでなく、最終的な自滅の道となりかねない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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