[パリ 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 西側先進国は南半球を中心とする発展途上国「グローバルサウス」の気候変動との戦いを支援することに前向きな姿勢を強めている。先進国が途上国に巨額の資金を提供するのは難しいが、少ない資金で大きな成果を上げる方法はある。
ウクライナ戦争で米国とその同盟国にショックだったことの1つは対ロシア制裁に参加した途上国が非常に少なかったことだ。西側先進国は台湾を巡って中国と対立した場合を懸念している。グローバルサウスの同盟国を欠いたままロシアに立ち向かうのと、経済規模がロシアの10倍もある中国に対峙するのとでは全く異なる。
気候変動への懸念が高まる中、主要7カ国(G7)が中国の「一帯一路」構想に代わるグリーンオルタナティブを推進し、貧しい途上国の発展を支援しようとしている主な理由はここにある。G7は既に南アフリカ、インドネシア、ベトナムの3カ国と温室効果ガスの排出削減や化石燃料の使用削減に向けた国際的な取り組み「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を締結。インドのグリーン化を加速させる支援が検討されているほか、気候変動対応に積極的な大統領が生まれたブラジルとの間でも同じような計画を進めるとの見方が浮上している。
しかし、グローバルサウス全体にグリーン開発向けの資金を提供するには年に約1兆ドル(約130兆円)の費用が必要で、西側先進国の予算からそのほんの一部ですら捻出することはできない。そもそも西側先進国は途上国に年1000億ドルを提供するとした以前の約束すら守っていない。
しかし素晴らしいことに富裕国が自分の懐を痛めることなく資金を調達する方法がある。また今年は気候変動金融を巡る外交を強化するのにうってつけの年でもある。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の会議、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)、ドバイで開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)でこのテーマは中心的な議題となるだろう。
<MDBを動かせ>
民間金融機関は形の上では世界的な温室効果ガス排出量実質ゼロ化(ネットゼロ)への移行に150兆ドルの資金提供を約束しており、資金の大部分を担わざるを得ない。途上国に流れる資金は増えている。しかしリスクが高く、投資家が大きなリスクプレミアムを支払わなければならない場合、多くのプロジェクトは実行不可能であり、流入額はまだ少ない。
最も有望な解決策は、政治的リスク保証などの手段を駆使し、比較的少額の公的資金で民間資本を吸い上げることだ。国家予算の制約を考えると、各国・地域の政府は世銀やIMFなど国際開発金融機関(MDB)を動かす必要がある。
MDBのバランスシートを気候変動対策にもっと積極的に活用することも1案だ。世銀は最大の出資国であるG7の圧力を受けて、ようやくその方法に関するロードマップを作成した。とはいえ、MDBの関与を強化するたけでは不十分で、もっと資金がいる。したがって先進国は、この課題に最も熱意を示しているMDBにもっと資金を回すべきだ。世銀が腰を上げないならばアジア開発銀行やアフリカ開発銀行のような、より積極的な金融機関に資金を投じることができる。
先進国は特別引出権(SDR)を脱炭素化計画の資金として再配分することもできる。IMFは外貨準備高を増やすためにSDRを発行しているが、外貨を持つ国にとってSDRは必要ない。
バルバドスは、富裕国が保有する5000億ドルのSDRを信託に預け、外貨に交換することを提案している。この信託が民間資本を呼び込み、途上国の民間セクターのプロジェクトに低い資本コストで資金を貸し付けるという計画だ。
この信託はIMFの既存の途上国向け気候変動対策支援制度「強靭性・持続可能性トラスト(RST)」よりも気候変動を止める効果が大きい。気候変動による災害に見舞われた国の国際収支面の必要性を支援するだけでなく、気候変動の影響を緩和するからだ。
またこの資金は民間部門に流れるため、すでに負債漬けとなっている政府の借入金を増やすこともない。SDRは通貨バスケットをベースにしているため、ドル高になっても借り手の債務は増えないと、シェフィールド大学のマイケル・ジェイコブズ教授は指摘する。
<メタンガス、船舶、航空機への課税>
先進国は新たな財源を見いだす必要もある。
多くの環境保護団体は石油・ガス企業への課税を求めているが、政治的に実現不可能だ。ロシア、米国、中東諸国などの産油国が反対するだろう。また、このような税制を散発的に導入すれば、企業を他の場所、多くは環境基準の低い国々に追いやることになる。
もっと良い方法がある。1つは炭素排出への課税強化だ。米国ではインフレ抑制法の一環としてメタンガスの排出への課税を計画している。
さらに、船舶や飛行機は気候変動に与える影響が大きいにもかかわらず、これまでほとんど課税を免れてきた。欧州連合(EU)は既に域内を航行する航空機に対して炭素排出許可の購入を義務付けており、船舶にも同じような制度を導入する計画。日本は海運業に炭素税を導入し、年間560億ドルの税収を集めることを提案している。
こうした提案が世界的にコンセンサスを得るのは難しいかもしれない。しかし気候コンサルタント会社E3Gの共同最高責任者、ニック・メイビー氏は、2021年に多国籍企業の最低課税で合意したように、海運や航空会社の課税を巡り大連合が形成される余地はあるとみている。先進国は、こうして集めた資金を途上国に回すことができる。途上国が気候変動を食い止めるのを支援するのと同時に、昨年約束した新しい「損失と損害」を補償する基金に資金を提供することも可能だ。
2023年はグリーンファイナンスにとって重要な年と言える。米国は来年の選挙で気候変動に配慮しない大統領が誕生するかもしれない。世界の指導者は今年のチャンスをがっちりとつかむべきだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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