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コラム

コラム:インド軍の新募集計画、根深い雇用問題解決に役立つか

[ムンバイ 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 改革はしばしば抵抗を受ける。インドの場合、軍の新たな兵士募集計画「アグニパス(火の道)」を巡り、複数の州で鉄道への攻撃や不動産の破壊といった抗議行動が発生した。こうした反発の大きさは、新計画にどれだけメリットがあろうともより高いコストがそれをかき消してしまう可能性を示唆している。

 改革はしばしば抵抗を受ける。インドの場合、軍の新たな兵士募集計画「アグニパス(火の道)」を巡り、複数の州で鉄道への攻撃や不動産の破壊といった抗議行動が発生した。写真は東部ビハール州パトナで17日、アグニパスへの抗議が行われる中、火を付けられた警察車両(2022年 ロイター)

インド軍は志願制で兵役期間は決まっていない。しかし先週、政府がイスラエルやシンガポールの制度を借り受ける形で発表した募集計画は、まず4年の契約を保証した上で、新規採用者うち、それ以上軍にとどまれるのは25%という内容だ。国防省幹部によると、このやり方ではインドが持つ人口動態面の強みを生かせる。つまり新兵の平均年齢は徐々に低下していく。軍が若返り元気な兵隊が増えれば、緊張状態が高まっている中国と国境を接する山岳部での活動にプラスの効果をもたらす。

また公表されていない点として、大きな財政上のメリットもあるはずだ。4年で退役する兵士には一時金が支給されるが、軍人年金は払われない。社会保障制度が十分に整っていないインドでは軍は人々にとって貴重な就職先で、農村では何年も入隊待ちの若者が出るところもあるほどだ。ただ、コロナ禍が拡大していた時期は、新兵募集は停止されていた。

新計画は訓練費用を増大させるだろう。それでも年金支払いの負担を抑えられるので、その予算を装備や兵器をより多く購入する資金に充当できるという期待が生まれる。インド国防費は約670億ドルで、総予算の13%も占める。国防費の中で投資目的の支出比率が過去4年で着実に上向いているとはいえ、給与と年金などの人件費がなお全体の半分以上になっているのが現実だ。

今回の暴力的な抗議活動は、インドが抱える雇用問題がいかに根深いかの証拠と言える。今年募集される4万6000人の75%は退役後に新たな仕事を見つけられないかもしれない。それでもセンター・フォー・モニタリング・インディアン・エコノミーの推計では、同国で職探しをあきらめている人は4億5000万人に達する。これに比べれば退役後の就業難は大したことがないかもしれない。インド人が職のえり好みをする傾向が強まっていることもあり、同国の労働参加率は低下の一途をたどっている。

新計画は、軍で訓練を受けた人がその後に大手企業に多く採用されやすくすることを目指す。当局者は特に複合企業のリライアンス・インダストリーズを挙げている。自動車メーカーのマヒンドラ・アンド・マヒンドラなどを傘下に置くマヒンドラグループの総帥アナンド・マヒンドラ氏も20日、退役兵士を採用する機会があれば喜んで受け入れると語った。もっとも採用基準にうるさい民間セクターでほかに同じような動きがどれだけ広がるかは分からない。

政府は国有企業での雇用拡大も約束している。だが当面、肝心の人材育成を巡る諸問題は軍任せということになる。

●背景となるニュース

*インド政府が14日発表した軍の新たな兵士募集計画「アグニパス(火の道)」を巡り、北部や東部で暴力的な抗議活動が広がった。新計画は現役兵力140万人の平均年齢引き下げを目的として、新規募集した兵士の契約期間を4年に短縮する。同計画に基づく今年採用予定人員は4万6000人で、4年の期間を終えて軍にとどまれるのは全体の25%となる。ロイターが19日に国防省高官の話として伝えたところでは、今月中に募集が始まる。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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