[ニューヨーク 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - かつてフェイスブックと称したメタ・プラットフォームズを仮想空間「メタバース」分野の巨人に衣替えする、というマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)の構想は、大きな弱点を抱えている。
彼が生み出す新たな世界を最大限享受するには、ユーザーはまず一連のハードウエアを購入しなければならない。しかし過去の例に照らせば、顧客が手を触れられない製品(ソフトウエア)から触れられる製品(ハードウエア)に販売を切り替えた企業は、その後険しい道のりをたどる傾向がある。1日の時間外取引中にメタが第4・四半期決算を発表した後、株価は一時20%跳ね上がったが、これは投資家がより目先の変化にとらわれ過ぎて、真実が見えていない証拠と言える。
メタは2023年の設備投資計画額を引き下げ、自社株買い拡大の方針を打ち出した。昨年約25%もコストが増大した半面、収入が初めて減少した同社としては、できることとして最低限の措置だ。ただし本来は、メタバースを利用して業績を上向きに転換するというザッカーバーグ氏の計画にこそ、投資家は注目しなければならない。
メタは2014年にオキュラスを買収したおかげで、メタバースの醍醐味を一番味わう上で必要なヘッドセットを自ら生産できる。とはいえ、成功を収めるには規模のメリット確保が不可欠で、つまりサプライチェーン(供給網)の強化に加え、販売価格を顧客にとって手頃な水準に設定することが大事になる。これらは全て利益率の縮小につながるため、メタが収益源として力を入れてきた広告アルゴリズム拡充の取り組みが水を差されてしまう。
ソフトウエア企業がハードウエアに目を向けた場合、間違った方向に進みがちになるという格好の例として挙げられるのが、マイクロソフトによるノキアの携帯電話事業買収だろう。数十年にわたってソフトウエアがハードウエアのエコシステム全体のために創出した価値の一部を取り戻すという意図だったものの、ほんの数年でマイクロソフトはこの買収に伴う資産を一括償却し、76億ドルの減損損失を計上した。
他のハイテク企業も同じような失敗をしている。アルファベット傘下のグーグルが導入したスマートグラスは、当初非常に有望視されたが数年のうちに脇役的なプロジェクトに過ぎなくなった。アマゾン・ドット・コムも、鳴り物入りで登場させたスマートスピーカーの「アレクサ」が単に人目を引く商品という存在と化し、関連事業の従業員を削減しつつある。
これからメタが成功する道は、ビデオゲームのプラットフォームと広告事業を融合させ、ソニーや任天堂などが求めているコードのオープン化に動き、混乱を起こしにくい魅力的なパッケージを生み出すことだろう。だが過去の幾つかのケースを見れば、それが実現する公算は非常に乏しいことが分かる。こうした道を認めれば、メタの株主よりも他の企業の株主に、フェイスブックが提供している既存サービスの恩恵がより行き渡る可能性が十分にある。それでもザッカーバーグ氏がせっかくこれまで築き上げてきた企業価値を台無しにするよりは、恐らくましなのではないか。
●背景となるニュース
*フェイスブックを傘下に置くメタ・プラットフォームズが1日発表した第4・四半期売上高は320億ドルで、前年同期比4%減少した。2022年全体の売上高は1%減の1166億ドル。
*第4・四半期利益は、前年同期の103億ドルから47億ドルに減少した。
*今年の設備投資計画額は従来の340億─370億ドルを300億-330億ドルに引き下げた。自社株買い承認枠の400億ドルへの引き上げも発表した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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