[ニューヨーク 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - JPモルガンやゴールドマン・サックスといったウォール街の首脳は従業員の大半が職場に戻ってくるのを望んでいる。だが、ニューヨークの企業経営者としては、むしろ少数派に属する。
これは、職場とリモートを組み合わせた「ハイブリッド勤務」を志向する働き手にとって朗報と言える。しかし、企業のオフィス需要に依存するニューヨークの商業地保有者から見ればそうではない。
企業経営者の大半は、毎週5日きっちり出社して働くというスタイルはもはや過去の話だという現実を受け入れている。パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティが実施した調査では、8割近くの企業が、柔軟な働き方が可能なハイブリッド勤務こそ「新常態」だと認めている。4月下旬時点で、マンハッタンで働く人々の平日の平均出社率は約4割にとどまったという。
オフィスの規模縮小に踏み切る企業も出てきた。HSBCは、5番街ブライアントパークというマンハッタンのど真ん中に位置する米国本社をハドソン・ヤード地区に移転しようとしており、スペースは半分弱になる。
現在パークアベニューに新本社を建設中のJPモルガンのダイモン最高経営責任者(CEO)でさえ、必要なデスクのスペースは従業員の75%分で十分との考えを示唆した。
総合不動産サービスのクシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、マンハッタンのオフィス空室率は今年第1・四半期で既に21%に達した。同社は、マンハッタンの空室物件数が、首都ワシントンとシカゴを除く米国内の全ビジネス中心地帯の在庫規模を上回ったと指摘した。
そうなると、コストに応じて賃料を上げるのは難しくなりかねない。例えば、不動産投資信託(REIT)のボルネード・リアルティー・トラストは、昨年のニューヨークにおける既存物件からの純営業利益が2019年比で8%減少したと発表した。ボルネードやニューヨークに投資物件が集中している同業のSLグリーン・リアルティーの株価は、過去3年間でそれぞれ約45%と30%の下落となっている。
パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティの集計に基づくと、マンハッタンの雇用水準自体は100万人とコロナ禍前に戻った。この8割にハイブリッド勤務が提示され、平日に半分が出社しているとすれば、必要な座席数は約60万席となり、2年余り前の需要より40%少なくて済む。どうやらニューヨークで今ひしめき合っているのは、比喩的にも文字通りの意味でも、働く人々ではなく高層ビルだけのようだ。
●背景となるニュース
*米ケーブルテレビ大手・コムキャスト傘下のNBCは、ニューヨークのロックフェラーセンターにあるオフィスを9万平方フィート拡張するという計画を取りやめる可能性がある。不動産情報サイトのコマーシャル・オブザーバーが1日伝えた。NBCは、職場復帰する従業員数を見極めたい意向だ。
*パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティが5月9日に公表した調査結果によると、市内の雇用主の80%近くは職場とリモートを組み合わせたハイブリッド勤務体系を想定していることが分かった。今年4月下旬時点で、マンハッタンのオフィスで働く人たちのうち、平日の平均出社率は38%だった。
*HSBCは5月2日、米国本社が現在の5番街のブライアントパーク付近からハドソン・ヤード地区に移転すると発表した。スペースは今の半分弱に縮小する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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