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コラム

コラム:ペロシ氏訪台、中国の経済的報復困難で高まる軍事衝突リスク

[香港 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ペロシ米下院議長の台湾訪問に猛反発している中国側にとって、現実的には経済的な報復手段が乏しい。それが逆に米国との軍事衝突リスクを高めている。

 ペロシ米下院議長の台湾訪問に猛反発している中国側にとって、現実的には経済的な報復手段が乏しい。それが逆に米国との軍事衝突リスクを高めている。写真は2日に台北の空港に到着したペロシ氏(右)と、台湾のジョセフ・ウー外交部長(外相)。提供写真(2022年 ロイター/ Taiwan Ministry of Foreign Affairs)

ペロシ氏は2日、中国政府から再三にわたって訪台しないようくぎを刺されたにもかかわらず、台湾入りした。習近平国家主席としては、米国や台湾の企業に是非とも仕返しをしたいところだが、自国経済が不安定化し、重要なサプライチェーン(供給網)が寸断される恐れがある以上、実際にはなかなか踏み切れない。奇妙なことに、そうした事情によってかえって軍事衝突の確率が上がるかもしれない。

ペロシ氏は過去にも中国に対して「スタンドプレー」を見せた。1991年に訪中すると、北京の天安門広場で民主派支持の横断幕を掲げたのだ。そして今回、1997年のニュート・ギングリッチ氏に続いて台湾を訪れた2人目の米下院議長となった。もっともギングリッチ氏の時代の米中関係はもっと良好だったし、中国の力は弱かった。そのペロシ氏の訪台について、バイデン大統領は政権としての立場とは違うと表明した。しかし中国国営メディアは、軍事的な対抗措置が講じられると警告を発している。

米国と台湾の企業からすると、問題は中国が彼らに報復するかどうかだ。台湾の足場は弱い。昨年の中国本土と香港向けの輸出額は1880億ドルと、全体の4割を超える。農産物輸出ならこの比率はもっと大きい。中国当局は1日夜、約100種類に上る台湾の食品の輸入を禁止したとも報じられた。

ただ中国は、特に台湾の主力産業である半導体などの高付加価値製品の輸入は続けざるを得ない。自国の製造業に供給されている半導体の輸入を止めれば、すぐさま輸出に影響が及ぶ。鴻海精密工業や台湾積体電路製造(TSMC)といった大手台湾企業は、中国本土で多数の労働者を雇用している面も忘れてはいけない。これは多くの米国企業にも当てはまる状況だ。

中国には投資規制も行き過ぎてはならない理由がある。中国で活動している米国と台湾の企業を過度にたたけば、7月に欧州自動車大手ステランティスが中国国有自動車大手との合弁事業から撤退すると発表したように、外国企業は中国市場から出て行くべきだという論者に「錦の御旗」を与えてしまう。

現在、中国の経済指標は輸出を除くほぼ全てが下向きになっており、秋の共産党大会で3期目の国家主席就任について正式な承認を獲得したい習氏は重圧にさらされている。資本逃避や貿易摩擦は、習氏の政治的な立場にとって決してプラスには働かない。一方で習氏は、米国の動きに怒りを抱く国内の愛国主義者をなだめる必要も感じているだろう。そこで中国が軍事行動で自らの力を誇示しようとして、世界屈指の海上輸送ルートである台湾海峡で偶発的な衝突が起きる可能性が大きくなる。「経済的な平和」は、本物の平和の代わりにはならない。

●背景となるニュース

*中国の王毅国務委員兼外相は2日、台湾問題で「火遊び」をする米国の政治家たちは「好ましくない結末を迎える」と警告した。

*中国軍機はペロシ氏の台湾訪問前から、台湾海峡で不測の事態が起きるのを防ぐために設置されている中間線付近を飛行していた。

*バイデン米大統領は公式の立場としては、ペロシ氏の判断とは一線を画すと表明している。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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