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コラム

コラム:エリザベス女王、英国の脱工業化を支えた「ブランド力」

[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英国のエリザベス女王は、同国が苦難を切り抜ける上で多大な貢献をしてきた。8日に96歳で死去した女王が即位した時代の英国は、当時のアチソン米国務長官から「帝国の地位を失ってその役割を見出せないでいる」と辛らつに批評されるほど沈みきった10年のまっただ中だった。それから70年にわたる女王の在位期間は新たな尊厳と安定をもたらし、英国は工業国から世界にさまざまなサービスを提供する国へと脱皮した。

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女王の即位した時期と現在は、経済的に幾つか重なる部分がある。1950年の英国は、工業製品の貿易収支は黒字だったが、食料と素材の輸入に伴う赤字を埋めるには不十分で、戦時に膨れ上がった政府の債務は国内総生産(GDP)の200%を超えていた。

今年の政府債務も再びGDP比100%に向かいつつあり、サービス貿易の黒字は急拡大している輸入エネルギーの費用を賄いきれないかもしれない。結局今も70年前と同じく、英国が一定の生活水準を維持できるかどうかは、外国からの投資マネーをどの程度呼び込めるかに左右される。

実際、英国が世界中の資金を集める役割を担ってきたというのは、女王の在位期間を通じてずっと続いてきた特徴の1つと言える。女王が即位したちょうどその頃、米国で各種規制が変更され、膨大な金融活動がロンドンのシティーにやってきた。英国はいわゆるユーロドル市場をうまく活用できたことで貿易赤字のファイナンスにつなげた。海外の投資家を安心させたのは、法令に対する高い信頼性と国家統治機構の安定性だ。

女王はこうした英国の国家的枠組みの柱の1つだった。英国は1688年の名誉革命以降、国王が君臨して議会が統治する立憲君主制を維持しており、国王はしばしば表に出ない形でその役割を果たしている。エリザベス女王は、決して国論を二分しない公式メッセージを発信する完璧な能力を備えつつ、計15人の首相から定期的に政務の報告を受ける場を設けていた。ここからは、英国には時おり政治的、経済的な危機が訪れるとしても、憲法上の土台部分は堅固さを保ってきたという歴史がはっきり読み取れる。

同時に女王は、対外的な英国の代表者としても強い影響力を発揮してきた。英国製品は女王のイメージとの結びつきによって計り知れないほどの魅力を与えられた。王室から「女王陛下御用達」を認められた自社製品が高く評価されている英企業は800社に上る。

さらに女王は1950年にGDPの約5%だった英国のサービス輸出を、2019年時点で約15%まで高まるのを後押しした面もある。王室が年間3200におよぶ公式行事に出席し、数多くの外国訪問をこなしていることは、ある種の大規模な英国ブランドの売り込みキャンペーンの一環として機能している。だからこそ米国人がロンドンのホテルに殺到し、世界中の富豪はイングランドの田舎に不動産を持つことに憧れ、中国人は子どもたちを英国の学校に留学させようとするのだ。その意味で、女王は究極の「英国ブランド大使」にほかならない。

女王はこのブランド大使として、金銭面でも素晴らしい価値を生み出している。2017年にコンサルティング会社ブランドファイナンスが見積もったところでは、女王は英経済にグロスベースで年間18億ポンドと、王室の年間経費3億ポンドをはるかにしのぐプラス効果をもたらしつつ、670億ポンド相当の有形・無形の資産を蓄積している。英国の「ソフトパワー」に関する数々の研究で、女王が突出した存在として取り上げられているのも何ら驚くに値しない。

だが、英国はこの安定した対外イメージを当たり前と考えることはできない。過去10年で、スコットランドでは独立の是非を問う住民投票が実施され、独立賛成派が反対派に迫る勢いを示した。英国が欧州連合(EU)から離脱して2年を経た今は、北アイルランドを巡る新たな緊張も生じている。

ジョンソン前首相は、EU離脱を強行するため議会を一時閉会してまでEUと離脱協定書に調印したものの、その後協定書の一部内容を破棄するとほのめかした。女王は憲法上の役割をきちんと果たしたとはいえ、この間の混乱で政治の安定を確保するという面で君主の力には限界があると世界は思い知った。

女王の遺産の1つには、現代英国において類を見ないほどの人気の高さもある。女王の在位70年記念式典開催中にユーガブが行った調査によると、国民の62%が君主制を支持すると答えた。ただ長きにわたる女王の時代が終わったことで、英国の統治機構がこれまでずっと維持してきた魅力はどれほど女王の存在に負う部分が大きかったかが、今後明らかになってくるだろう。

●背景となるニュース

*英国のエリザベス女王は8日、96歳で死去した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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