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コラム

コラム:米消費者、インフレに苦しむ世界経済に救いの手

[ワシントン 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国の消費者が世界経済に救いの手を差し伸べている。世界金融危機の2009年、動揺する世界の下支え役として、企業は中国を頼りにした。今回、多くの国が数十年ぶりの高インフレに見舞われる中、企業は米国に世界経済の救済という力仕事を期待している。中国における新型コロナウイルス感染拡大阻止のためのロックダウン(都市封鎖)や戦争の影響を受けてはいるが、それでも消費は底堅い。

 8月30日、米国の消費者が世界経済に救いの手を差し伸べている。ニュージャージー州ノースブランズウィックで7月20日撮影(2022年 ロイター)

世界金融危機の影響を和らげる上で中国が果たした役割はかなり過大評価されている。4兆元(現在のドル換算で5860億ドル)の景気刺激策ではインフラに資金が投じられ、外需の落ち込みを補った。こうした政策でオーストラリアなどからの鉄鉱石その他商品の輸入が増加。スターバックスやフォルクスワーゲン(VW)といった企業は中国における売上高が下支えされ、中国は09年末に四半期の国内総生産(GDP) 成長率が11.9%と驚くべき水準に達した。しかしコモディティー以外の需要の大半は中国国内で創出され、海外での雇用創出効果は限られた。

対照的に、今回は米国が世界経済の救済に乗り出している。非営利研究機関のブルッキングス研究所によると、政府の景気刺激策が支えとなり、米家計の過剰貯蓄は約2兆5000億ドルに達している。商務省が17日に発表した7月の小売売上高がインフレ調整後で前月比0.6%増と予想に反して増加したのは、この過剰貯蓄が一因だ。

ドルが7月に対通貨バスケットで20年ぶりの高値に上昇していることも、米国の消費を後押ししている。米国の対中輸入は1-6月期に前年同期比で20%急増し、欧州からの輸入も12%増えた。米国の低所得者層は物価高に苦しみ、ウォルマートなど小売業者の売り上げが影響を受けており、いくらかの減速はある。

しかし富裕層は経済の歯車に油を注ぎ続けている。例えば、ティファニーやディオールといったブランドを抱えるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は上半期に売上高が21%増加した。中国のコロナ規制の影響で日本を除くアジアの売上はほぼ横ばいだったが、米国では24%増加。米国の売上高比率は27%に上昇した。この夏ホーム・デポでは299ドルの中国製ハロウィン用スケルトンがあっという間に売り切れた。

米国民はウクライナ戦争の影響が欧州に比べて小さく、海外でもお金を使っている。旅行保険会社アリアンツ・パートナーの推計によると、この夏は米国から欧州への休暇旅行が600%増加する見込み。またイプソスの調査によると、旅行の予算も米国が440ドル増の平均2760ドルと、欧州の1800ドル弱を上回っている。世界旅行ツーリズム協議会によると、旅行業界は米国の好調が追い風となり、世界全体のGDPに対する寄与度がパンデミック前の水準の10%近くに回復する見通しだ。寄与度は2020年にはほぼ半減していた。

米国の消費はしばらく持続する可能性がある。JPモルガンのダイモン最高経営責任者(CEO)は6月、米国の消費力はまだ最大であと9カ月保たれると予想した。バンク・オブ・アメリカのモイニハンCEOはもっと楽観的だ。7月のCNBCテレビで、中所得層も銀行口座残高がパンデミック前の約3500ドルから今では約1万3000ドルに増え、ペントアップ需要にこたえるとの見方を示した。

一方、今年に入って中国の寄与はほとんどマイナスだ。GDPに占める個人消費の割合は、米国の68%に対して、中国は年末までに37%に低下すると予測されている。過去最高の貿易黒字は国内需要の弱さを浮き彫りにしている。

外資系企業は痛みを感じている。スターバックスは7月3日までの四半期に北米の既存店売上高が9%増加したが、中国では44%減少した。 フォード・モーターは四半期の中国での販売台数が昨年末から38%減少し、ステランティスは中国での合弁事業を打ち切った。唯一の明るい材料は、中国の不動産セクターが低迷しているおかげで、世界第2位の経済大国である同国が資源価格インフレを増幅していなことだ。

一部の企業にとっては、中国経済の不調はかすり傷に過ぎない。エアビーアンドビーは中国から事実上撤退したが、第3・四半期の売上高を過去最高の約30億ドルと見込んでいる。他の多くの企業と同様、米国の消費者のおかげだ。

●背景となるニュース

*米商務省が17日発表した7月の小売売上高はインフレ調整後で前月比0.6%増加した。ガソリンの値下がりで財の価格が下がり、消費者は食品購入や外食に充てる資金的な余裕が拡大した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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