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コラム

コラム:米大手銀の活況幕切れ、リストラ期突入も難しい雇用構造

[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ウォール街の大手銀行は、人員削減が必要不可欠になることがある。例えば、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスが債券トレーディングはかつてのような収益源でなくなったという現実を突き付けられた7年前のように。

 米ウォール街の大手銀行は、人員削減が必要不可欠になることがある。写真はニューヨーク証券取引所前で2020年10月撮影(2022年 ロイター/Mike Segar)

そして今、大手行は再び大きな調整の波に備えようとしている。過去2年にわたる収益急増をもたらしてきた金融市場とM&A(企業の合併・買収)の活況が幕切れを迎えているからだ。今回の人員削減規模は以前より小さくなりそうだが、相応の衝撃は避けられない。

2019年末以降、大手行は懐が潤うのに伴って従業員数も拡大してきた。モルガン・スタンレーの増員は30%、約1万8000人に達し、ゴールドマンは8700人、JPモルガンの法人・投資銀行部門はおよそ1万3000人増えている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)とシティグループを含めた米大手5行全体では10%増加したことが、公表資料から見て取れる。

しかし、トレーダーやM&Aアドバイザーには成果主義が適用されており、今はその成果を上げにくくなっている。ジェフリーズ・ファイナンシャルが9月28日に発表した6─8月期の投資銀行部門収入は前年比で32%減少。JPモルガンの投資銀行部門を統括するダニエル・ピント氏は、第3・四半期のM&A関連手数料は50%減る恐れがあると警告した。

一部の米大手投資銀行が、クレディ・スイスやドイツ銀行といったそれほど好調ではなかったライバル行からシェアをどんどん奪い取り、その過程で人員を増やしてきたのは確かだ。それでもコアリション・グリニッチがまとめた3月末時点のデータに基づくと、世界の大手投資銀12行は19年末以降に収入が40%増えているにもかかわらず、いわゆる「フロントオフィス」の従業員規模は以前と変わっていない。

つまり各行は事実上、優秀な人員から今までよりさらに多くの成果を引き出した。パンデミック前は300万ドルを下回っていた1人当たり収益は、昨年およそ420万ドルに跳ね上がった。

では増員された従業員はどこで何をしているのだろうか。その多くはソフトウエア開発者で、銀行の経営スリム化と顧客のつなぎ止め強化のために採用された。ゴールドマンはオンラインの消費者金融部門マーカスで人員を増やし、JPモルガンは20年に投資銀行部門で決済関連の人員拡充。買収も従業員数を押し上げ、モルガン・スタンレーはオンライン証券のEトレードと資産運用会社イートン・バンスを買ったことに伴っておよそ6000人を獲得している。

各行は結果的にこのせいで苦境に陥りつつある。収益が急速に細っていく中で、より多くの従業員を養わなければならなくなったからだ。セールスやトレーディング、M&A仲介が絶好調だった19年、ゴールドマンとモルガン・スタンレー、JPモルガン、BofA、シティの5行は総額で1070億ドルの収入を稼ぎ出した。6月末までの4四半期の合計は1560億ドルに上る。だが今年に入って市場の価格調整が進んでいることからすると、収益はこうした好況期以前の水準に逆戻りするかもしれない。

投資銀行の減収対処策は、報酬引き下げが真っ先に挙げられる。従業員らも賞与が減らさせるのは覚悟している。しかし事業収入が恒久的に下振れるなら、経営側は人員を削減するほかに手はなくなる。1つのやり方は、退職者のポジション補充を見送ることだが、決して望ましくはない。最終的に失いたくない人材を流出させ、残った従業員の忍耐力を試すだけになるためだ。

縮小が続く業界であっても、有能なM&A担当者やトレーダーは容易に就職先を見つけている。米労働省の調査によると、7月末時点で金融・保険の求人件数は過去5年平均を70%も上回った。JPモルガンのピント氏や、ダイモン最高経営責任者(CEO)は、経済的な逆風が強い時期は優秀な人材を比較的手ごろなコストで採用する好機だとの見方を示した。

もっとも、ほかにうまい対応策があるわけでもない。IT技術者をレイオフすれば、その銀行はデジタル金融に移行する流れに取り残され、将来得られるはずの経営効率化のメリットが台無しになる恐れがある。米大手5行には、より馬力を見せて投資銀行の不調をカバーしてくれそうな部門は備わっている。モルガン・スタンレーなら富裕層向け事業、ゴールドマンはマーカス、シティはクレジットカードと貿易金融、JPモルガンとBofAは巨大な商業銀行といった具合だ。ただ、いずれもの経済成長の減速と信用環境の悪化に起因する試練に直面するだろう。

経営が受ける打撃を人員削減で吸収できないなら、矢面に立たされるのは株主だ。大手金融機関の株価は今年初めからの下落率が33%それ以上に達しており、既に彼らはある程度の苦渋を味わう状況に置かれている。これはS&P総合500種の下げ幅と大差はない。しかしゴールドマンとモルガン・スタンレーは今年になって株主資本利益率(ROE)の目標値を15%前後に引き上げている。シティのフレーザーCEOが最近掲げた有形自己資本利益率(ROTCE)の目標は12%と幾分低いが、事業改善に四苦八苦している銀行にとってはもはやかなりハードルが高くなってしまった。

各行がいずれも収入の急減に直面しながら、思い切った削減が困難な雇用構造を抱えているという事態からは、失望が生まれる余地が出てくる。大手行のうち、人員縮小に動く公算が最も大きいのはゴールドマンだろう。同行は成果の少ない従業員を解雇する人事考課制度を復活させている。もっとも事情に詳しい関係者の話では、そのゴールドマンでも削減規模は全従業員の1%強程度にとどまりそうだ。

大手行の首脳にとって、市場環境が悪化する局面で従業員を減らすのは過酷な作業だ。一方、誰も解雇しなければ、今度は株主にとって厳しい展開が訪れる。

●背景となるニュース

*ゴールドマン・サックスは、パンデミック期間中に一時凍結していた人員削減を再び開始する見通し。事情に詳しい関係者の話では、通常の年間削減規模は従業員の最大5%だが、今回は1%程度にとどまりそうだ。

*バンク・オブ・アメリカのモイニハン最高経営責任者(CEO)は9月12日にフォックスニュースで、従業員規模の面で同行は「適切な状態」にあると発言したが、退職者が出た場合の補充は見送る余地も残した。

*ジェフリーズ・ファイナンシャルが9月28日に公表した8月末までの3カ月の投資銀行・資本市場部門の収入は前年比32%減少した。助言・引き受け関連収入は44%減の6億8200万ドル、トレーディング収入はほぼ横ばいだった。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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