[ブリュッセル 29日 ロイター] - メイ英首相が欧州連合(EU)からの離脱協定案に英議会の支持を得ようとする中で、もっとも大きな障害となっているのが、アイルランドとの国境問題に関するバックストップ(安全策)だ。
バックストップとは何か、また、なぜこれほど議論を呼ぶのかを整理した。
●英国とEUの双方が回避したがる「厳格な国境管理」とは
英国とアイルランドは、1998年にベルファスト合意を結び、北アイルランドの帰属を巡って約30年続いた紛争に終止符を打った。
この合意により、英領北アイルランドとアイルランドの約500キロに及ぶ境界線では国境管理が廃止された。また、アイルランド島全域が同じルールや機関により運営されることになり、北アイルランドは英国内でも特殊な位置づけになっている。
英国のEU離脱(ブレグジット)により、国境で検問が導入される可能性がある。また、19日には北アイルランドで新たな反英国組織が車を爆発させる事件が起きており、暴力再燃の懸念が高まっている。
●解決策は
メイ首相は、20─44カ月の移行期間中にEUとの間で交渉する特別な税関・通商合意により、英国とEUの全境界で円滑な往来が実現するため、アイルランド国境を通過する物品に対して厳格な検査を行う必要性は生じない、と主張している。
●それは結構だが、では何が問題なのか
アイルランド政府が、EUの支持を受け、この将来的な通商協議が失敗に終わった場合に備えた「保険」を求めていることだ。
●その保険とは何か
メイ首相が昨年11月にEUと合意した離脱協定案は、厳格な国境管理を回避するのに必要な「代替的な取り決め」が取り交わされるまでの間、英国はEUの関税同盟内にとどまるとしている。
EU側は、北アイルランドのみが関税同盟にとどまるべきだと主張したが、メイ首相や北アイルランドの地域政党で英国帰属を主張する民主統一党(DUP)が、北アイルランドとアイルランドの合併に道を開くものだとしてこれに反対した。DUPは、メイ首相の保守党政権に閣外協力し、議会での多数維持に貢献している。
●しかし英議員は反対している
多くの議員が、EUのルールや関税率に縛られ、英国独自の貿易協定も結べない状態で、EUの司法機関の監督を受け続けることを嫌っている。
メイ首相は、2021年をめどとした期限をバックストップに設けることをEUに求めている。一部のEU加盟国では、2025年前後に期限を設定することを検討しているが、アイルランドや多くのEU指導者は拒否している。
●次に何が起きるか
誰にも分からない。メイ首相が、2週間前の歴史的大差での離脱協定案否決を覆せる兆候はない。EU側は、離脱協定やバックストップ条項については再交渉しないとする一方で、ブレグジット後の通商関係の枠組みを示した政治文書を見直し、例えば英国を関税同盟にとどめることなどを明記してバックストップを回避できる方法を明確にすることなどは考えられるとしている。
だがこれは、メイ首相にとって受け入れがたい。
●合意が得られなければどうなるか
誰も譲歩しなくても、英国は3月29日にEUから離脱する。アイルランドと英国は、過激派の標的にされかねないため、国境管理を実施する計画はないとしている。
だがEUは、合意なしに離脱した場合、一定の厳格な国境管理が必要になるとの立場だ。
●アイルランドは窮地に立たされているのか
非常に困っている。EU側は、アイルランドを支持し、バックストップの受け入れを求め続けるとしている。だが同時に、合意なき離脱も望んでいない。
合意なき離脱が現実のものになった場合、アイルランドは、EUと英国の間で唯一となる陸の国境を開放し続けるわけにはいかなくなる。英国から入ってくるモノの検査を怠れば、アイルランドからEUへの輸出品についても検査が必要ではないかとの議論がEU側から提示される可能性がある。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)