[ロンドン 19日 ロイター] - サッカー・ワールドカップ(W杯)が11月20日から12月18日まで中東カタールで開催される。通常、北半球の夏に行われるW杯が今回ちょうどクリスマス直前と重なることで、頭を抱えているのが英国のスーパーマーケット業界だ。財布のひもが固くなっている消費者にクリスマス関連商品と、ビールやピザといったW杯の「お供」を同時進行で、できるだけ多く買ってもらう作戦を考えなければならないからだ。
本来、小売り各社にとって年末商戦は1年の収益の大部分を占める書き入れ時。一方、W杯もさまざまな飲料や食品の「特需」が期待できる。
ところが英政府がのちに撤回した、財源の裏付けがはっきりしない大型減税などの政策を発表して住宅ローン金利が急上昇するなど国民の生活費危機がさらに深刻化する懸念が広がる前でさえ、消費者信頼感は過去最低圏に沈んでいた。
つまり今回タイミングが重なったクリスマス商戦とW杯で見込める合計消費額は、それぞれのイベントが別々の時期の場合よりも少なくなる公算が大きい。
複数の業界幹部は、W杯の開催時期が冬になったことで、年末の消費動向予測や物流計画を立てる上で使用するアルゴリズムが全く役に立たなくなったと嘆く。長年にわたって食品小売りに携わってきた関係者は「商売上のメリットを得ようとする上では悪夢のタイミングだ。業務運営の面でも悩ましい。なぜなら売り場をクリスマス一色したいまさにその時期に、W杯のためにビールやスナック菓子などをそろえなければならないからだ」と話す。
人々がサッカーに関心を奪われクリスマス気分にならず、W杯が終わった後の商戦終盤が逆に殺気立つほどの事態になる危険もある。英小売り最大手テスコのマーフィー最高経営責任者(CEO)は今月、「クリスマスとW杯の販売計画を同時にどう練り上げるかという点でこれはやや戸惑う要素だ」と語った。
またイングランドチームが不調のままグループリーグを突破できない場合どうなるかも問題だ。スーパー各社は今のところ、同じ組に入ったイングランドとウェールズがともに健闘することを前提に、売り場の配置を決めようとしている。
<プランB>
もちろん各社とも「プランB」は準備しており、イングランドとウェールズが決勝トーナメントに進めなかった時は、ビールやスナック菓子、サッカー関連商品の特設コーナーをすぐにシャンパン、スパークリングワイン、贈答品、飾り付け品などに入れ替える手はずは整えている。
ただ業界幹部に話を聞くと、イングランド地方で今月1日に発効した新たな規制が、販売計画をより複雑にしている。この規制で、脂肪分や糖分、塩分を多く含む健康に良くない食品を入り口、レジ付近、通路の突き当たりなど売り場の目立つ位置に置くことが禁じられた。
市場調査会社カンターによると、2018年7月に開催された前回のW杯期間に、買い物客が英国のスーパーを訪れた延べ回数は通常より1300万回も多かった。クリスマスと復活祭の時期を除くと、イングランドがコロンビアとスウェーデンに勝利した18年7月の週のアルコール飲料消費額は過去最高の約2億8700万ポンドだった。
昨年、新型コロナウイルスの世界的流行で延期されていたサッカーの欧州選手権が開かれた時期も、イングランドが決勝に進出したこともあり、スーパーにおけるアルコール飲料消費額は12億ポンドに達した。
今年に関しては、当然ながらクリスマス商品購入目的の客もW杯関連商品を買ってくれる可能性はある。ただどの家庭も買い物予算の総額を絞っているので、スーパー側も消費額全体が減るのは覚悟の上だ。
<イングランドの頑張りに期待>
英食品小売り各社は既に、物価高騰と消費者の行動変化で深刻な重圧にさらされている。実際今月になってテスコは利益見通しを引き下げ、先月にはモリソンズ、アルディUKなどが減益を発表した。
こうした中でカンターの小売り・消費者分析責任者フレーザー・マケビット氏は「(今回は)夏のW杯ほど大きな商戦にはならないだろう」と話す。
それでも同氏は「イングランドが勝ち進めば、テレビ視聴やお祝いムードを通じて買い物をしようとする気運が生まれてくる」と期待している。
(James Davey記者)
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