for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

米金融規制案が市場直撃、リスクマネー収縮なら商品市場に影響も

 [東京 22日 ロイター] オバマ米大統領が打ち出した金融規制案がマーケットを直撃し、22日の東京市場でも株安とドル安が進んだ。日経平均は一時、前日比300円を超す下落となり、ドル/円は90円台を割り込んで、それが株価をさらに下押しする要因になっている。

 1月22日、米大統領が打ち出した金融規制案がマーケットを直撃し、日経平均は一時前日比300円を超す下落に。写真は2008年7月、都内の株価ボード前で(2010年 ロイター/Toru Hanai)

 市場には、リスクマネーがいったん収縮するため、株価だけでなくコモディティ市場でも大幅な価格下落が起きるのではないかとの見方が浮上。その際は足元で売られているドルが、リパトリエーション(資金の本国還流)で買い戻される可能性があるのではないかとの声も出ている。

 <株は国内勢が売りの主体に>

 株式市場では日経平均が大幅反落となり、下げ幅は一時300円を超えている。オバマ米大統領が21日に提案した金融機関に対する新規制案の衝撃は、東京市場も直撃した。米大手金融機関にとって最も収益性の高いヘッジファンド投資や自己勘定取引を制限する内容となっていることから、「グローバル投資マネーの収縮につながる。日本株は海外勢の買いで上昇してきただけに、先行きに懸念が浮上した」(大手証券)という。

 日経平均はリスク回避の先物売りが先行し、裁定解消売りを伴って下げ幅が拡大した。今のところ海外勢から目立った売りは観測されていないが、国内勢や短期筋の処分売りが断続的に出ている。

 野村総研・金融市場研究室主席研究員の井上哲也氏は「米金融規制案はオバマ政権の現状を象徴している。米国内では雇用情勢とは対照的に金融市場の回復ぶりが目立っていたが、マサチューセッツ州での上院補選で負けたことから、一般の有権者に配慮した政策を進めざるを得なくなった。今後も不透明感が強まれば、景気回復の足を引っ張る可能性もあるだろう」と指摘している。

 一方、大和証券・キャピタルマーケッツ投資戦略部部長の高橋和宏氏は「自己勘定取引の禁止が投資マネーの縮小につながる可能性もあるとはいえ、日本株に投資しているのは年金など長期資金も多い。年金勢が一時的に様子見姿勢をとることはあっても、中国株から日本株へのシフトといった投資行動への影響は限定的ではないか」とみている。

 金融規制案の法案化や、議会通過の可否などをめぐる不透明感が強いとの指摘も出ている。みずほ証券・投資情報部ストラテジストの堀内隆文氏は「米金融規制案の現実味は乏しいとみている。このまま投資銀行業務に規制がかかれば、大手銀行の収益環境は様変わりし、金融システムの安定化はとても望めない。議会では共和党中心の抵抗が強いと予想され、何らかの妥協案を探るのではないか」と語る。その上で「今回の規制案はオバマ政権の支持率回復という狙いもあり、大々的に金融機関を批判した以上、何らかの落としどころを見つけざるを得ない。先行きの米景気への懐疑的な見方にもつながりそうだ」とみている。

 また、きょうの下げは大きくなっているものの、市場は次第にショックを吸収し、株価は下げ止まり方向に動くとの声もある。大和住銀投信投資顧問・投資戦略部長の門司総一郎氏は「日経平均は足元で大きく下げているが、年明け以降の急速な上昇の過程で買いそびれていた投資家の押し目買い意欲があるとみる。徐々に下げ止まるのではないか」と述べている。ただ、決算発表後の株価動向が気がかりとも指摘。実際、米グーグルGOOG.Oの第4・四半期決算は、市場予測を上回る増益となったにもかかわらず、売上高の伸びが一部の市場予測の下限にとどまったことから、株価は時間外取引で約5%下落している。

 今回の新規制案を受け、米国市場、東京市場ともに株安とドル売りが進行したが、この先はやや違った展開が待っているとの声もある。東海東京証券・チーフエコノミストの斎藤満氏は、ヘッジファンドなどへの資金供給が細ることで、これまで価格上昇が目立っていたコモディティ市場で反対売買が表面化し、外為市場では米国勢のリパトリでドルが引き潮のように買い戻される時期が来るだろうと予測する。

 <ドル1カ月ぶり89円台、米金融規制案で円が全面高>

 ただ、足元の外為市場では、世界的な株安を受けて円が全面高。米金融規制案で「リスク資産売りとリスク回避の円買いが活発化した」(都銀のチーフトレーダー)という。ドルは海外高値の91.88円からきょう午前の89.78円まで2円超下落して1カ月ぶり安値を更新。ユーロ/円は同3円近い下げで一時126.55円と9カ月ぶり、英ポンド/円は同3.6円の下げで145円前半と1カ月ぶり、豪ドル/円も同3円超の下げで80円後半と1カ月ぶり安値を付けた。

 この日のアジア市場で、日本の大手投資家とみられる向きがドル/円の下値で買いに動いたことなどもあり、午前終盤にかけては急ピッチな円買いも一服となったが、市場では下値不安は消えていないとの見方が大勢。「発表内容は驚き。法案の詳細が明らかでなく、どの程度の影響が出るのか現時点で想定もできない」(都銀)ことが市場関係者の不安心理をあおり、円を押し上げやすい地合いにつながっているという。

 前日海外市場の終盤からきょう午前にかけては、ユーロの買い戻しも目立った。リスク削減モードでポジション圧縮の動きが強まる中 ギリシャ問題などを背景にこれまで大きく売り込まれたユーロにも、短期筋からポジション解消とみられる買い戻しが入った。

 ユーロ/ドルは海外で一時1.4029ドルまで下落して半年ぶり安値を更新した後、きょう午前に一時1.4139ドルまで上昇。前日の取引で10年ぶり安値圏となる1.54豪ドル前半へ下落したユーロ/豪ドルも、1.54豪ドル前半からきょう午前に1.56豪ドル後半へと切り返した。ユーロ/英ポンドも前日海外市場でつけた5カ月ぶり安値の86ペンス半ばから87ペンス前半まで値を戻した。「ユーロは売りポジションがかなり積み上がっており、買い戻しが入りやすい」(邦銀)

という。

 株や商品、高金利通貨などのリスク資産売りのもう1つの要因となったのが、豪の税制改正案。豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドが22日、財務省高官が税制見直しについてまとめた報告書で、鉱山事業を対象とした州政府による採掘料徴収を廃止し、連邦ベースの資源税を導入する案を推奨したと伝えたことを受け、前日の取引では豪ドルに売りが先行。欧州株式市場ではリオ・ティントRIO.Lなど鉱山株が大きく下落した。

 豪のスワン財務相は22日、包括的な税制改正を提案した報告書を近く公表する方針を明らかにした。

 <株安で円債は買い優勢>

 22日午前の円債市場は大幅反発した。株価が大幅安となり、国債先物の取引水準が切り上がった。海外ファンドや証券会社など業者のヘッジが買い戻されたほか、中長期ゾーンで銀行勢の現物買いが観測されたことも、先物相場押し上げに波及したとみられる。

 シティグループ証券・チーフストラテジストの佐野一彦氏は「基本的に相場が上昇するポテンシャルは十分にあったので、驚きはない。株の天井感や米金利低下基調などから、円債は買われる方向にある」とみている。

 また、グローバルなマネーフローに関して、日興コーディアル証券・国際市場分析共同部長の末澤豪謙氏は「物価上昇などでの中国の引き締め問題、オバマ米大統領が打ち出した金融機関の新規制案により、リスク資産から安全資産への逃避が進んでいる。日本市場も株安/円高、金利低下の状況にある」と述べた。

 ただ、国内投資家の動意はやや薄く、今後に関しては「大きくファンダメンタルズが悪化して株が下げているわけではないので、一方的に下がることは考えにくい。高値圏にあったため、いったんは利益確定売りが出ているとみている。円債も株の推移を受けて、国債先物の上昇も徐々に止まってくることが想定できる」とみている。

 (ロイター日本語ニュース 田巻 一彦)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up