[東京 22日 ロイター] オバマ米大統領が提案した金融機関に対する新規制案を嫌気してリスクマネーが巻き戻しの動きを強めている。世界的に株安、商品安が進み、日経平均も300円を超える下落となった。
前年末から日本株を押し上げてきた海外勢も一部は売り越しに転じているという。米金融規制案はいずれ「現実路線」に落ち着くとの見方も多いが、ひとまず規制案の行方を見極めようとマーケットには慎重ムードが広まっている。
<日本の「モラトリアム法案」の再現との見方も>
「金融機関が闘いを望むなら受けて立つ用意がある」と述べるオバマ大統領の強い口調にマーケットはいったん大きく反応したが、提案自体は徐々に「現実路線」に修正されるとの見方が多い。「オバマ氏はマサチューセッツ州連邦上院議員補欠選挙で共和党候補が勝利したことにショックを受けてポピュリズム的な政策に走ったのではないか。自己勘定取引の禁止など現実的ではない提案もあり、最終的には日本のモラトリアム法案のように緩やかな規制になる可能性が大きい」(準大手証券ストラテジスト)との見方が出ている。
金融業界筋によると、ガイトナー米財務長官は、大手金融機関の取引や規模を制限すれば米企業の国際競争力に影響する恐れがあるとして慎重な姿勢を示しているという。
ただ、いったんはヘッジファンドなどはリスクマネーを収縮させるとみられている。米ダウは200ドルを超える下落となり、ドルは対円で90円を割り込み、金や原油も売られた。大統領の提案には、銀行業務を行う金融機関によるヘッジファンドもしくはプライベート・エクイティ・ファンドへの投資や保有・出資を禁止させるとあり、いったんヘッジファンドなどが警戒から株式やコモディティなどへのエクスポージャーを縮小させる可能性があるためだ。
実際、日本の亀井静香郵政・金融担当相が昨年9月に中小企業による借入金や個人の住宅ローンなど銀行への返済にモラトリアムを設けるとの「モラトリアム提案」を打ち上げたときには、先行き不透明とみられながらもメガバンク株を中心に株価は大きく下落した。
今回も「先行きは不透明だが、大統領からの提案であり、マーケットも重視せざるを得ない。どの程度の規制内容になるかはわかならいが、金融機関のリスク投資の抑制という趣旨は残るだろう」(みずほ証券エクイティストラテジストの瀬川剛氏)と慎重な見方が聞かれている。
<海外勢の買いに変化の兆しも>
日本株の上昇を支えてきた外国人投資家の買いは今週に入り変化の兆しをみせている。1月第2週(1月12日―1月15日)の3市場投資主体別売買内容調査では外国投資家は4805億円の買い越しとなり、今年に入り前週までで1兆1900億円近く日本株を買い越した。だが、今週に入ってからは売り越しに転じているとの声が多い。ある米系証券では今週は前日まで4日のうち3日が売り越しだったという。
買い越しを続けていた寄り付き前の外資系証券10社経由の注文状況は今週20日に17日ぶりに売り越しに転じた。その後は70万株、190万株と再び買い越しとなっているが小幅にとどまっている。
前日は中国の金融引き締めが警戒されながら日本株だけが上昇し、地合いの強さを示したとの声もあがったが、きょうの東京市場では海外勢の買いは細り気味だという。市場では「前日はシンガポールのソブリン・ウエルス・ファンドや中国系マネーなど普段、日本株を買わないような投資家の買い観測が出ていた。一転きょう前場は海外勢の買いはみられず、売り越しに転じている海外勢もいる。国内勢や短期筋の売りも目立っている」(大手証券トレーダー)との声があった。
ある米系証券のトレーダーによると「小沢一郎民主党幹事長の資金問題に関しては特に海外勢からの反応はないが、今週に入ってからアジア株がウエート上限に達したから日本株を仕方なく買うといったパッシブ的投資が目立つ」という。
第一生命経済研究所・主席エコノミストの嶌峰義清氏は「日本株は年末以降、海外投資家による買いに下支えられてきたが、リスクマネー収縮で海外勢の日本株買いが鈍化する可能性は十分に考えられる。一方、リスク許容度の低下を背景に高金利通貨から低金利通貨にマネーが流入するとすれば、円高が進むことになり日本株にとってはマイナス材料」と述べている。
ただ米金融規制が「現実路線」に落ち着くことが判明すれば海外勢が日本株買いを再開することも期待される。また、大和証券キャピタルマーケッツ金融証券研究所・投資戦略部部長の高橋和宏氏は「日本株に投資しているのは年金など長期資金も多いとみられている。年金勢が一時的に様子見姿勢をとることはあっても、中国株から日本株へのシフトといった投資行動への影響は限定的ではないか」と指摘していた。
(ロイター日本語ニュース 伊賀 大記記者 編集 橋本浩)