for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

ロイターコラム:至上命題は「勝つ介入」、政府は目標明確に

田巻 一彦 ロイターコラムニスト 

 9月15日、政府・日銀が6年半ぶりのドル買い/円売り介入に踏み切ったが、この先にドル安圧力が強まれば長期戦を強いられる。写真は端末を見つめる外為ディーラー(2010年 ロイター/Yuriko Nakao)

 [東京 15日 ロイター] 政府・日銀が15日午前の外為市場で6年半ぶりのドル買い/円売り介入に踏み切った。今のところ市場は円安/株高で反応し、政府のメンツは保たれた格好だが、この先にドル安圧力が強まれば、政府は長期戦を強いられる。

 大規模介入でもスイスフラン高を抑制できず、多額の為替差損を蒙ったスイス政府が自国内から強い批判にさらされていることを見れば、政府にとって「勝つ介入」は至上命題だ。そのために政府がすべきことは介入の目標の明確化だ。ドル/円水準の押し上げを目指すのか、それとも相場の急激な変動をならすことがターゲットなのか。今回のドル安/円高の背景には、米景気の減速懸念と米連邦準備理事会(FRB)による追加緩和の思惑があるだけに、目標が不明確なまま介入を継続すれば、的確な時期にエグジットできず、介入規模だけが膨張した上に「負ける介入」になるリスクが高まるだろう。

 <意識された菅首相の民主党代表再選のタイミング>

 ジリジリとドル安/円高が進む外為市場の動向をみて、市場関係者の中からは「介入のタイミングを見つけるのが当局にとっても難しいだろう」との声が出ていた。実際、15日の市場で介入がなかったとしても、82円後半まで下げたドル/円は、自律反発して83円前半に押し戻されるとみていた市場関係者が多かった。

 だが、政府は介入を決断した。その背景には、菅直人首相が民主党代表に再選され、それをきっかけに14日のNY市場でいったん82円台まで円高が進み、こうした動きを黙認すれば、菅政権は円高進行を事実上、容認するのではないかとのメッセージを市場に伝えることになるとの危機感があったのではないか。今回の介入では、野田佳彦財務相が介入の事実を緊急会見で認めるという異例の対応をしたばかりでなく、介入実施の時刻を午前10時35分と明らかにし、白川方明日銀総裁が談話まで出す大がかりな仕掛けとなった。

 <沈黙する米欧当局の真意>

 サプライズが市場に広がり、ドル/円は84円後半まで上昇し、日経平均も前日比200円超の大幅高となった。政府・日銀の決断は、円安/株高を引き出したことで短期的には正しかったとの評価を受けるだろう。しかし、問題はこれからだ。

 米欧の通貨当局は、今回の日本の介入に何らメッセージを出していない。菅首相が民主党代表選の最中に、介入した場合の他の主要国の対応に関し「ネガティブなことは言わないほしい」と発言したが、その通りの展開になっているのだろう。だからと言って、米欧各国が日本の介入に賛意を示し、協調介入に同調する可能性はほとんどない。特に中国の人民元政策を批判している米国にとって、日本がこれから大規模介入を継続した場合、中国に反論の余地を与えることにため、相当な不快感を表明するリスクも出てきてしまう。

 <円高の背景に米追加緩和の思惑>

 他方、今回の円高の大きな要因が、米景気失速の懸念と米追加緩和の可能性や、欧州のソブリン問題に代表されるクレジットリスクにあるという事実を真正面から認識する必要がある。介入で一時的に円高を止めたとしても、FRBの追加緩和期待が高まったり、現実に追加緩和に踏み切ると、円高圧力が再燃する。欧州のどこかでクレジットリスクが浮上した場合にも、同様の事態が発生する。

 15日の介入で2円近く円安に振れたものの、市場のセンチメントが全面転換する88円まではかなり遠い。円高圧力が高まって再び82円台を付け、さらに80円割れをうかがう時期が来る可能性も少なくない。ドルが下がり出した時に、ずっと介入し続ければ、介入規模が膨大になり、多額の為替差損が発生するリスクが増大する。

 <介入成功の分岐点はエグジットのイメージ>

 そうした事態を回避するには、介入の目標を明確化することが重要だ。介入は急激な変動を抑えるために実施すると目標をクリアに示し、頻度を抑制する方針を予め表明する。その方が介入への警戒感を高め、抑止力が増大すると思う。15日の介入もサプライズだったために、83円後半から84円前半にかけて損失を抱えた参加者がいて、当面はドル売り/円買いをためらうムードが広がるだろう。

 どんなプロジェクトでも、エグジットが最も重要な問題だ。介入を始めたら、やめる時期を具体的にイメージしないと、ダラダラと継続せざるを得ない事態になりやすい。米国がベトナム戦争で敗北したスタートは、終了のイメージを持たないまま始めた北ベトナムへの爆撃(北爆)だったというのが、多くの歴史家の指摘するところだ。

 今回の介入は、ドル安/円高のトレンドを変えないと、やめらないリスクをはらんでいる。米景気の復調と米長期金利の反転が明確になるか、協調介入の実施で強引に市場の流れを変える時まで、介入が継続される懸念も残る。明確なイメージの下に効率的な介入を実施できれば、今回の介入は「デフレ悪化を防いだ画期的な対応」と評価されることになるだろう。反対に泥沼状態の介入が続けば、為替差損への批判も高まるだろう。その分かれ道は、日本の通貨当局に介入終了の具体的なプランがあるかどうかにかかっている。

 *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該第コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up