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アングル:武田薬、特許切れの谷越え来期から業績回復へ

[東京 18日 ロイター] 特許切れの谷を越えた武田薬品工業4502.Tの業績が、2014年3月期から回復する見通しだ。パイプラインの強化やM&Aなど、これまで仕込んできた種が芽を出し始め、今後数年にわたって承認・商品化が期待される新薬候補が複数控えている。

3月18日、特許切れの谷を越えた武田薬品工業の業績が、2014年3月期から回復する見通しだ。都内の本社で2009年7月撮影(2013年 ロイター)

市場の目は5月に発表される中期計画に向いており、長谷川閑史社長が公言する15年3月期に営業利益率20%という目標の達成に向け、具体策をどう打ち出してくるのかに注目している。

<TAK875は1000億円規模の期待>

武田は毎年中計をまとめており、2011年5月に発表した際は、12年前後に主力薬の特許切れが相次ぐことから減配の懸念があり、「中計期間中は年180円配当を維持する」という発表がニュースになった。それから2年、今回の中計では「増配がいつになるか注目している」(バークレイズ証券アナリストの関篤史氏)との声が出るまでに、先行きの回復を描けるようになった。

今年3月12日、武田は欧州医薬品庁(EMA)に潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「ベドリニズマブ(MLN0002)」の販売許可を申請した。08年に買収した米ミレニアム・ファーマシューティカルズが成分を開発した期待の抗体薬だ。ほかにも前立腺がん治療薬「TAK―700」、多発性骨髄腫治療薬「MLN9708」、糖尿病治療薬「TAK―875」、うつ病治療薬「LUAA21004」など、自社開発品、他社が開発した新薬の権利を買い取って製品化する「導入品」ともに、武田のパイプラインには新薬候補がずらりと並ぶ。

クレディ・スイス証券アナリストの酒井文義氏は「15年3月期は中型クラスの導入品、自社品の寄与、16年3月期以降は大型化が期待される自社品のTAK―700やTAK―875などが成長ドライバーとなる」と話す。

とりわけ投資家の期待が高いのが「TAK―875」。武田は11年に特許が切れた主力薬「アクトス」の後継薬として、今年1月に米国で承認を得た「ネシーナ」を位置付けているが、この薬はつなぎ役の意味合いが強い。その後に投入する「TAK―875」が大型薬として注目されている。

ネシーナは、インクレチンというホルモンの分解酵素であるDPP4の働きを抑える2型糖尿病の薬で、DPP4を阻害する薬はすでに米国でも数種の薬剤が発売されている。一方、「TAK―875」は新規作用の薬剤で、売上高1000億円以上が期待されている。武田によると、日本では16年3月期中、欧米では17年3月期中の承認を見込んでいる。

<白紙の小切手持参でパイプライン探し>

かつての武田は自社開発にこだわってきたが、新薬開発を取り巻く環境が厳しくなる中、良いものは社外からでも取り込むという方針に転換したことが、同社を大きく変えた。「武田が白紙の小切手を持って世界中を回っている」と業界で揶揄されるほど、パイプライン探しに必死だった時期があったという。

特に08年に88億ドルを支払ったミレニアム買収は、がん領域でのパイプライン獲得だけでなく、同社の研究開発に大きな影響を与えた。意思決定の速さや、化合物を最適な形で開発していく体制、導入品に対する目利きなど、「学んだことは多かった」と、武田の関係者は言う。

外部の人材も積極的に取り入れた。11年に開発のリーダーである取締役CMSO(チーフ メディカル&サイエンティフィック オフィサー)に就任した山田忠孝氏は、グラクソ・スミスクラインの研究開発部門やビル&メリンダ・ゲイツ財団などを経て、武田に迎えられた。医師、実業家、教育者など、いろいろな経歴を経ており、これまでとは異なる眼で武田の研究開発を俯瞰している。武田の取締役は現在、7人中3人を外部から登用した人材が占めている。

<15年3月期に営業益3000億円乗せの期待>

「15年3月期に営業利益率を20%に改善させたい」と長谷川社長が話すように、目下の最重要課題は利益率の向上だ。今年5月にまとめる中計では、その目標に向けた具体策が示される見通し。

昨年の中計で武田が初めて公表した15年3月期の売上高の計画は1兆7000億円、営業利益は2400億円。今回の中計では利益率20%という目標に基づいた数値を出してくるとみられ、売上高の計画を据え置くなら営業利益は3400億円と、昨年の数値から1000億円のかい離が生じる計算だ。国際会計基準(IFRS)を予定通りに導入すると、のれんの償却が必要なくなるなど400億円の増益要因になるが「残り600億円をどう手当てするかに注目。増益が見込まれる16年3月期の見通しと併せ、本格回復が始まったことが認知されれば、さらに株価はそれを織り込む余地がある」と、クレディ・スイス証券の酒井氏は指摘する。

今年から来年にかけて、TAK―700、TAK―875、MLN9708の臨床第3相のデータが出てくるとみられる。ただ、パイプラインが順調に承認・製品化に結び付くとは限らず、武田が世界で戦っていくには「バリューの大きな製品が少ない。プレセンスを増すには大型品が欲しいところ」と、バークレイズ証券の関氏は指摘する。中計では大型薬候補の獲得などの投資戦略にも関心が集まる。

13年3月期は、買収したスイスのナイコメッドの経費計上により、営業利益は前年比39.6%減の1600億円を予想している。14年3月期は、費用計上がなくなることや、ネシーナなどの貢献で増益に転じる見通し。武田が昨年5月に公表した中期計画では、14年3月期の営業利益は2250億円、15年3月期は2400億円だった。

市場も現時点で同水準を予想しており、トムソン・ロイター・エスティメーツがまとめた過去90日間の営業利益予測は14年3月期が2165億円(アナリスト13人の平均)、15年3月期は2542億円(14人の平均)。16年3月期は2831億円(7人の平均)となっている。

(ロイターニュース 清水律子;編集 久保信博)

*本文中の表現を一部修正して再送します。

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