March 29, 2019 / 11:13 PM / 22 days ago

コラム:ボーイングを失墜させた過剰な「ポジティブ思考」

[ロンドン 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ボーイング幹部(BA.N)が、ほぼ確実に口にしなかったことがある。「エアバス(AIR.PA)に遅れをとらないことがいかに大事か、分かっているだろう。たとえそれが、安全面で賭けに出ることを意味するとしても、われわれは迅速に行動しなければならない」というものだ。

 3月27日、ボーイングは現在、安全上の不備がいかに高くつくかを示しているのかもしれない。成功を収めている企業がどうしてこのように道を踏み誤ってしまったのか。写真は運航停止中の米サウスウエスト航空ボーイング737MAX8型機。カリフォルニア州で26日撮影(2019年 ロイター/Mike Blake)

どのような製品も安全でなくてはならないが、航空機は別格だ。許容できるレベルの事故など存在しない。主要なシステムはすべてバックアップ措置が取られ、保守作業は入念に行われる。新しい技術は十分なテストを受け、さらにテストは繰り返される。ボーイングや競合他社は、米連邦航空局(FAA)などの規制当局から求められる非常に厳格な要求に対し、協力して取り組んできた。

そのような協力体制は実にうまいこといっていた。

世界銀行によると、世界の旅客数は1970年以降、12倍に増えた。その一方で、航空機事故による死者数は激減した。航空業界団体の航空安全ネットワーク(ASN)によれば、1966─70年の年間死者数は平均1469人だったのに対し、2014─18年は平均351人だった。

新型機の安全性を軽んじて、そのような記録を台無しにするような航空機メーカー幹部はいない。運航停止や機体の改修、航空会社への補償、受注キャンセル、民事あるいは刑事訴訟にかかるばく大な費用に比べたら、どのような利益も非常に小さなものだと彼らは認識している。

ボーイングは現在、安全上の不備がいかに高くつくかを示しているのかもしれない。捜査当局は、計346人が犠牲となったボーイングの新型機737MAX墜落事故の原因が、回避できた設計上のミスにあるのではないかと疑っている。事故原因の解明を急ぐ中、航空各社は同型機を運航停止にしている。

捜査は続いているが、米紙シアトル・タイムズは先週、FAAが安全評価をボーイングに委託しており、同社の新しい自動飛行制御システムの能力と、そこに欠陥がある可能性を過小評価していたと伝えた。FAAは、737MAXに対し標準的な認証プロセスに従ったとしている。一方、ボーイングも従来機と同様のプロセスだとしている。

成功を収めている企業がどうしてこのように道を踏み誤ってしまったのか。組織理論の専門家は「規制の虜」、より正確には、規制の均衡における変化を指摘するだろう。昔なら、ボーイングの管理職たちはできるだけ安全かつ迅速に製品を開発することを奨励した。FAAが非常に高い安全基準を設定することで押し戻してくることを分かっていたからだ。

要するに、安全性は、メーカーと規制当局が互いに尊重しつつも確かな緊張関係を維持することで成り立っている。737MAX機の開発において、自ら認証することでそのような緊張関係に緩みが生じていた場合、ボーイング上層部は自身の行動を完全に自覚していたなら回避できたであろうリスクを冒していたことになる。彼らの思考過程のどこかで、こうした現実を無視するようになってしまったに違いない。

この過ちを理解するうえで、2008年の金融危機以前に世界の大手銀行が取った行動は参考になる。銀行幹部たちは好況時に大きなリスクを取りたがったことを非難されることが多い。彼らは、損失を出してもそれを被るのは納税者であり、自分たちは利益を上げ続けることができると分かっていた。だが、そうした筋書きは間違っている。

銀行の上層部もトレーダーも巨額の報酬に目がくらんだのだろう。彼らはいつも公私ともに、まるでビジネスが基本的に健全であるかのように行動し、語っていた。金融当局は銀行に、リスクテイクに関する基準を独自に設定するのをまかせることにした。銀行は自分たちがそのエキスパートであると当局を確信させたのだ。金融危機時に導入されていた自己資本比率規制「バーゼルII」は、明らかに銀行がリスク評価を自身で行うものだった。

銀行家はたいてい誠実だったが、過度なポジティブ思考にまどわされていた。自信力は、ノーマン・ヴィンセント・ピール氏のベストセラー「積極的考え方の力」(1952年)のテーマである。「障害に立ち向かいなさい。ただ立ち向かうのだ。それだけだ。くじけてはいけない。いつか必ず道は開ける」と同氏は読者に語りかけた。

ピール氏は完全に間違っているわけではなかった。立派な態度で臨めば、大きな障害も乗り越えられることは多々ある。そこそこの給料を得ているボーイングで働くエンジニアたちの根拠なき自信によって、大成功を収めたジャンボジェット747型機の設計が生まれ、全く異なる新素材から787ドリームライナーが誕生した。

とはいえ、ポジティブ思考で常にすべてがうまくいくとは限らない。一部の障害は決して突破できない。断固立ち向かっても、危機や墜落につながることもある。

ここで、規制嫌いの人に向けた教訓がある。幹部や取締役会が悪い行動や愚かな行動をするのに悪意は必要ない。彼らが無能である必要も、共倒れしそうな競争圧力にさらされている必要もない。

 3月27日、ボーイングは現在、安全上の不備がいかに高くつくかを示しているのかもしれない。成功を収めている企業がどうしてこのように道を踏み誤ってしまったのか。写真はボーイング737MAX型機。米ワシントン州の工場で2015年12月撮影(2019年 ロイター/Matt Mills McKnight)

ただ彼らは、ビジネスで大成功するある秘けつを過剰に実践しているだけだ。資本主義においては、規制当局がネガティブ思考の効果を発揮した方がはるかに健全な世界になる。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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