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焦点:中銀デジタル通貨普及に備える米欧銀

[ロンドン 13日 ロイター] - 世界の中央銀行がデジタル通貨分野に踏み込もうとしている中で、関係する政策や技術的な計画に影響力を行使する取り組みについて、商業銀行が対応を強化している。複数の業界幹部への取材や公表資料によって、その実態が判明した。

世界の中央銀行がデジタル通貨分野に踏み込もうとしている中で、関係する政策や技術的な計画に影響力を行使する取り組みについて、商業銀行が対応を強化している。写真はフランクフルトのECB本部。2016年3月撮影(2021年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

米国から中国まで各国の中銀は、民間デジタル通貨の爆発的普及によって金融システムや経済をコントロールする力が弱まるのではないかと懸念し、自ら中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行を検討中だ。

デジタル版のドル、ユーロないし人民元が広く使われるようになるのは、まだ何年も先だろう。だが、そうしたプロジェクトは金融サービス業界の秩序をかき乱す恐れがあり、商業銀行側の対応が活発化している。

ステート・ストリートのデジタル資産マネジングディレクター、スウェン・ワーナー氏は「CBDCがお金の非常に本質的な部分を巡る議論をスタートさせた。これは証券の受け渡しから決済まで、われわれが行うほぼ全ての業務に対し、多大な影響を及ぼしてもおかしくない」と述べた。

CBDCの設計次第では、リテール事業の分野で中銀やハイテク企業が銀行のライバルになるかもしれない半面、銀行にとってCBDCがコスト削減とサービス改善のチャンスをもたらしてくれる可能性もある。

民間セクターが運営する暗号資産(仮想通貨)や、商業銀行がほとんどを創出して毎日数十億ドル相当が取引されている電子マネーと異なり、いくつかのCBDCは中銀が発行して支払いを裏付ける、現金通貨と同等の存在になる。

ステート・ストリート、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、ソシエテ・ジェネラル(ソジェン)、HSBCといったところが、CBDC関連技術でコストを減らし、恩恵も得ようと熱心に動いている。

業界幹部の話しや公表資料によると、商業銀行はCBDCについての調査に予算を振り向け、ハイテク企業や中銀と試験プログラム導入で連携するとともに、ロビー活動を積極化させているもようだ。欧州銀行連盟(EBF)や米商工会議所といった業界団体、政策担当者との非公式会談を通じた関与も進んでいる。

EBFは電子メールで、CBDCが及ぼす影響を「懸念」しており、デジタルユーロが与える広範なインパクトを踏まえ、欧州中央銀行(ECB)と欧州の銀行がこのプロジェクトで緊密に協力するためのもっと構造的な対話を要望すると付け加えた。

<卸売りならメリット>

CBDCは、基本的にホールセール(卸売り)かリテールのどちらかの形態になるだろう。そして、ホールセール版は銀行間ないし中銀に口座を持つ他の法人との間で、ブロックチェーン技術を駆使してより簡潔でコストの低い決済を行うために使われてもおかしくない。

HSBCとスタンダード・チャータードは既に、香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)の各中銀とホールセールの越境決済にCBDCを利用する計画を共同で進めている。現在、この手続きには複数の仲介業者がかかわるため、長い時間がかかる。シティとJPモルガンも、シンガポールで同じような取り組みに参加している。

最終的には、CBDCのそうした利用によって企業は、国際的な決済をリアルタイムで安全に済ませることができるだろう。

HSBCのクイン最高経営責任者(CEO)は5月、ロイターに対して、CBDCは国際決済を簡単にして、コストを減らし、透明性を高めると語った。HSBCは英国、中国、カナダで各国政府とデジタル通貨計画に関する話し合いを続けているという。

業界幹部に聞くと、完了まで何日もかかり、複数の機関が絡むような証券決済もCBDCでより効率化が可能になる。CBDCの受け取り後すぐに証券を受け渡すようプログラムを書き込むこともできる。

ロンドンに拠点を置き、金融機関15社が出資する新興フィンテック企業のエフナリティは現在、金融機関同士の決済を簡素化するブロックチェーンベースのシステムについて、規制当局の承認を待っている。

また、ゴールドマンは先月、JPモルガンのブロックチェーン・ネットワークを使ってレポ取引の決済を行った。

<不安要素>

商業銀行は、中銀が消費者向けに直接発行するリテール版CBDCが創造する未来には不安を持っている。

リテール版CBDCの支持者は、既存の銀行システムから排除されてきた何百万もの人々がデジタルウォレットを通じてお金の受け取りや支払い、貯蓄ができるようになるとその利点を説く。

行政サービスの改善や不正の抑制にも役立つだろう。例えば、新型コロナウイルス救済金は使途に条件をつけたCBDCとして、より素早く安価に給付され得る。

ただ、リテール版CBDCには、銀行の預金ベースを侵食するリスクがある。銀行にとって預金はコストの低い重要な資金調達手段であり、手数料の収入源でもある。

モルガン・スタンレーは先月、デジタルユーロが発行された場合、ユーロ圏の銀行が抱える顧客預金の8%を吸い上げる恐れがあるとの試算を公表した。

イングランド銀行(英中銀)も、CBDCを含めたデジタル通貨への大規模なシフトは、銀行の調達コストを押し上げ、結果的に貸出金利上昇をもたらすと警告する。

ソジェンのリテール決済副ディレクター、イサベル・マルツ氏は、人々が保有できるお金に関して中銀が競争的な立場を取れば、商業銀行の預金は目減りし、実体経済への貸し出し能力に悪影響が生じかねないとの見方を示した。

EBFはこれまで、中銀が貯蓄性や投資性のあるCBDCを発行し、預金と競合するのを避けて欲しいと促してきた。

もっとも、こうしたシナリオは極端で、中銀側も商業銀行の役割を維持したがっている。

ゴールドマンのデジタル資産グローバル責任者、マシュー・マクダーモット氏は「民間セクターの参加が鍵になると、関係者は分かっている」と解説した。

中銀はリテール版CBDCにかかわる民間企業の範囲をもっと広げ、競争を促進する可能性もある。例えば、中国は巨大フィンテック企業のアント・グループがCBDCの試験運用に加わるのを認めている。

幾つかの業界団体は、ノンバンクの参入組に銀行と同じ規制・監督を適用するとともに、民間セクターのCBDC政策における発言力を高める計画を推進中だ。

米商工会議所の場合、ホワイトハウスに政府と民間セクター、学界が一体となってCBDC戦略を論じる作業部会の設置を提案している。

(Anna Irrera記者、Tom Wilson記者)

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