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コラム

コラム:米欧の中銀、日銀式イールドカーブ・コントロールの誘惑

[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中央銀行当局者が現在の栄光に浸っていられる時間は少ない。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長と欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、大規模な資産買い入れを通じ、よりリスクの高い債券への需要を粉砕することに成功した。しかし、最も安全な政府債で今起こっている事態を巡り、次の戦いが始まろうとしている。

 6月8日、中央銀行当局者が現在の栄光に浸っていられる時間は少ない。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長(写真)と欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、大規模な資産買い入れを通じ、よりリスクの高い債券への需要を粉砕することに成功した。2月12日、米首都ワシントンで撮影(2020年 ロイター/Yuri Gripas)

米国とドイツの国債利回りは過去1週間で著しく跳ね上がった。5日には5月の米失業率が市場予想に反して低下すると、米10年債利回りは、新型コロナウイルスと感染防止対策が経済にもたらす影響に対して投資家のパニックが最高潮だった3月20日以降で最高の水準に達した。ドイツ10年債も、ラガルド氏が先週債券買い入れ規模の拡大と買い入れ期間延長を表明したにもかかわらず、利回りが上昇した。

米独の利回りが上がった一因は、新型コロナ対策で実施されていたロックダウン(都市封鎖)の解除により、経済が「V字」型で急回復するとの期待が広がったことにある。ただ両国の国債利回りは、企業から他国政府まであらゆる借り手にとって資金調達コストの基準になる。だから米独国債利回りが上昇すると、より信用度が低い向きの調達コストは増大する。たとえ安全な国債とリスクの高い債券の利回りスプレッドが落ち着いても、それは変わらない。そうした事態があまりにも早く発生すると、景気回復に冷や水を浴びせかねない、と中銀当局者は心配するだろう。

パウエル氏とラガルド氏は、短期の政策金利を当面非常に低い水準に据え置く意向を示し、市場金利の動きからは投資家がそれを信じていることも分かる。とはいえ、より長期の金利も低く抑え続けられるかどうかは別の話だ。この問題解決のため、FRBとECBは、日銀の黒田東彦総裁が編み出したイールドカーブ・コントロール、つまり長期金利をゼロ近辺に誘導する政策を採用したくなるかもしれない。

全般的な金利水準は依然として歴史的に低く、目先の上昇圧力は限られる。またECBの債券買い入れ拡大により、ドイツの国債利回りはイールドカーブ・コントロールを明示的に導入しなくても、上昇を抑制できる余地がある。それでもFEDウオッチャーは、9-10日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、長期金利への対応に関するヒントが出てくるかどうか注目するだろう。

さらに言えば、金利が上がり始めるのは時間の問題かもしれない。伝統的に倹約を旨としてきたドイツ政府でさえ先週、新たな大型の財政支出計画を打ち出した。政府による多額の借り入れは、中銀が何らかの手を打たない限り、利回りを押し上げがちになる。そこで日銀のやり方をまねるのが一番手っ取り早い選択肢だ。

●背景となるニュース

*米10年国債利回りは、1-5日の間に最大で32ベーシスポイント(bp)上昇した。5日には5月の失業率が予想に反して低下したことを受け、一時11週間ぶりの高水準となる0.96%に達した。

*ドイツ10年国債利回りも同期間で19bp近く跳ね上がり、8日時点でマイナス0.297%となった。イタリアとドイツの10年債利回りスプレッドは、直近で最も大きかった3月18日の3.31%ポイントから足元は1.71%ポイントに縮小している。

*米連邦公開市場委員会(FOMC)の次回開催は9-10日の予定。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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