[平頂山(中国) 26日 ロイター] - 中国河南省の平頂山市に住むエンジニアのカオ・ジュンさん(40)は、古くなった自家用車の整備を受けるたびに、隣の販売店にある新車に目を向けてしまう。しかし家のローンや妻の医療費などを背負うカオさんにとって、車を買い替えたくても現実には難しい。追い打ちをかけるのがかつて石炭産業で栄えた地域経済の衰退だ。
これは何も特殊なケースではなく、中国の自動車市場は今年、約30年ぶりに販売台数が前年割れしそうな情勢であることが、業界データで分かっている。米国との貿易摩擦でさらに強まった中国経済減速の兆候の1つと言えるが、特にこれまで自動車をはじめとする耐久財消費をけん引してきた平頂山市のような中小都市では、減速の影響が色濃くにじむ。
中国当局は製造業に長らく依存してきた経済構造を多様化する手段として、中小都市の消費活性化に期待をかけてきた。ところが既に、映画チケット販売からネットショッピング、スマートフォン購入に至るまで、消費の落ち込みが確認できる。
その理由の一部は、カオさんのような中小都市の消費者の懐がひっ迫していることにある。
カオさんの場合、主な勤め先である石炭・化学の複合企業、平煤神馬集団が生産能力を削減し、自身の収入が今年になって急減。仕方なく配車サービスの運転手として糊口をしのいでいる。毎月の収入は約6000元(864.40ドル)で、そこから住宅ローンに最低1000元、妻の医療費に400元、ほかにも娘2人の教育費の負担が大きい。こうした事情から「もっと良い車を運転したいがそれは許されない」という。
中小都市ではそうした自動車買い控えが相次ぎ、販売店や自動車メーカーを直撃している。
中国汽車工業協会(CAAM)幹部は「国内では4級─6級都市(中小都市)で主に市場の減速が見受けられる。これらの都市は過去数年間、中国の自動車販売を引っ張ってきた」と述べた。
<沈む地域経済>
平頂山市は1990年代、好調だった石炭産業の恩恵を受けていたが、中央政府の大気汚染対策強化に伴って事態が悪化。周辺で最大の雇用主の1つである平煤神馬集団が石炭生産能力を削減し、利益が減少すると地域経済がたちまち幅広い打撃に見舞われた。同社のような国有企業の多くは、地域社会に深く根ざして学校や病院を運営したり、従業員に年金や住宅補助などを支給してきたからだ。
成長が続いていた時代、同市においてファミリーカーは、地位と成功の象徴となり、販売台数が全国平均よりも高い伸びを記録していたものの、今はまったく状況が異なっている。
フォルクスワーゲンと上海汽車の合弁会社の販売店マネジャーは「本当にひどいことになっている。10月の販売台数は9月から40%減ってしまった。自動車ディーラーになって6年でこんなことは滅多にない」と語り、最大の理由は車を買えるお金のある人がどんどん少なくなっていることだと指摘。生産能力削減を迫られた国有企業の福祉切り詰めが影響しているとの見方を示した。
ロイターが主に平頂山市近辺で取材したこのマネジャーのような販売店員や自動車ローン会社幹部、地方政府当局者20人は、同市の今年の自動車販売は消費者が財布のひもを締めるとともに急失速したと口をそろえた。
河南省の自動車市場は、中国でも有数の規模を誇り、今年は乗用車100万台が売れている。それでも10月は18%減と、全国の約12%減よりも大幅な落ち込みになった。
平頂山市では、各販売店が値引きを展開しているが、先のマネジャーは「効果は目に見えていない」と話した。
(Yilei Sun、Adam Jourdan記者)