[香港 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国から安価な製品を購入するのが当たり前になっていた世界中の消費者は、この年末商戦期に衝撃を受けるかもしれない。中国の消費者物価指数(CPI)は、コモディティー価格高騰にもかかわらず横ばいを維持しているが、エネルギー危機と堅調な輸出需要を受け、限界まで我慢していた中国メーカーが国内外でいよいよコストを販売価格に転嫁するリスクが高まっているからだ。
公式統計は、せいぜいぼんやりした全体像しか示してくれない。9月CPIの前年比上昇率は0.7%と、政府目標の3%を大幅に下回った。
だが、これはウエートの大きい豚肉価格が生産回復を受けて前年比で47%も下落した影響に歪められた数字だ。対照的に輸送用燃料価格は前年比23%も上がった。
今年は衣料品や家電などの国内需要が低調で、多くの生産者はこれまで急激な値上げを見送ってきたという面もある。
この展開は長続きしそうにない。し烈な競争を背景に、中国の主要メーカーはしばしばコスト増大を自ら吸収することを強いられ、消費者物価の落ち着きに一役買い続けてきた。
だが、世界的なコモディティー価格上昇により、人手不足や新型コロナウイルスの影響、その他の制約に起因する供給網の混乱に拍車が掛かった。
その結果、中国の9月生産者物価指数(PPI)の前年比上昇率は10.7%と過去最大の伸びを記録。メーカーの利益率はかつてないほど圧迫されている。
さらに悪いことに、石炭が足りないため全国的な電力需給ひっ迫が発生。これは冬場いっぱい解消されない見込みだ。一段の原材料価格上昇を避けながら経済成長維持を目指す中央政府当局者にとって、まさに頭痛の種と言える。
このため消費者が、近いうちにこうした痛みを引き受けざるを得ないかもしれない。中国国際金融(CICC)のアナリストチームは、PPIの前年比上昇率が年内は9%超で推移し、それに伴ってCPI上昇率が2%に高まると予想する。
例えば、仏山市海天調味食品は最近、主力製品のしょうゆの小売価格を最大7%引き上げると表明。先週には大手製紙メーカーの玖龍紙業が、5日足らずのうちに2回目の値上げを打ち出した。
中国の輸出製品にも、その流れは波及していくだろう。バレンシアガなど世界的ブランドに製品を納入しているあるスリッパメーカーはBreakingviewsに、10%値上げしたと明かした。
また、海外向け中国製品の受注はこれまでにないほどしっかりしており、中国メーカーの価格決定力が高まることにつながる。年末商戦期の買い物は、今までよりストレスがたまるのを覚悟しなければならない。
●背景となるニュース
*中国国家発展改革委員会は19日、記録的高値にある燃料価格を「妥当な範囲」まで押し下げるために「あらゆる必要な措置」を講じるとの声明を発表した。中国の法令では、国務院(内閣に相当)と地方政府は重要な製品・サービスの価格が高騰した場合、利益率を制限し、価格上限を設ける権限を有する。
*同委員会によると、現在の石炭価格上昇は引き続き合理性のない上向きのトレンドを示しており「需給のファンダメンタルズから完全にかい離」しているという。
*中国最大のしょうゆメーカー、仏山市海天調味食品はしょうゆ、オイスターソースなどの製品の小売価格を25日から3-7%引き上げる。原材料と輸送、エネルギーに関連するコスト増大が理由だ。13日付の上海証券取引所への届出書類で明らかにした。
*中国国家統計局が14日発表した9月の生産者物価指数(PPI)は前年比10.7%上昇。1996年の統計開始以降で最大の伸びを記録した。9月の消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は0.7%と8月の0.8%から鈍化し、今年の政府目標である3%前後から一段と遠のいた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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