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コラム

コラム:改革開放進めた江沢民氏、後継者を苦しめる遺産

[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国の急速な近代化を推進した江沢民元国家主席が30日に死去した。中国共産党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席といった政治的に重要な地位を15年にわたって維持し、この間に起業を容認するとともに市場の育成に努めた人物だ。

 11月30日、中国の急速な近代化を推進した江沢民元国家主席が死去した。写真は2011年7月、北京で行われた中国共産党結党90年の記念展示会場に展示された江氏の写真(2022年 ロイター/Jason Lee)

一方で、格差拡大という指導部の後継者らを苦しめている問題を生み出す結果にもなった。足元で一般市民からの不満が高まっているだけに、こうした問題に再び注目が集まったという意味で、江沢民氏の死去は現指導者の習近平氏にとって実に好ましくないタイミングだったと言える。

学生らが政治や経済の改革を求めた1989年6月の天安門事件直後に党総書記に選ばれた江沢民氏は、内部対立によってがたがたになった共産党を率いることになった。彼の現実主義がおそらく党を救ったのだろう。最初に手を付けたのは自分を支持してくれる強力な集団の形成で、これはのちに「上海閥」と呼ばれるようになった。

次に、政治思想よりも経済を優先する方針を採用。さらに新聞の論説委員から西部の少数民族まで、社会の安定を脅かすとみなされた勢力をことごとく抑え込んだ。外国では親しみやすい雰囲気の政治家を演じたため、一時冷え込んだ西側諸国との関係も改善した。

江沢民氏は、台頭してきたブルジョワ層の取り込みという面でも抜け目なさを発揮。2001年には共産党が正式に起業家を歓迎する姿勢を打ち出し、起業家に批判的だった自らの姿勢を軌道修正した。02年に発表した「3つの代表」の考えは共産主義と資本主義をしっかり結合させ、今や毛沢東思想やマルクス・レーニン主義と並んで中国憲法の一部に取り入れられている。

当時実行された金融・経済改革は包括的で、中央銀行の独立性強化や2桁の物価上昇率を抑えるための金利政策活用、国有セクターに対する痛みを伴う改革などが盛り込まれた。もっともこれらの政策の一部には副作用もあり、例えば不動産ブームによって多くの人々が従来の居住地から闇雲に移動する事態も起きた。

中国のような国家主導の経済では統計が当てにならない面はある。それでも江沢民氏が国家指導者の座にあった間、国内総生産(GDP)は毎年10%の成長を記録。世界銀行の定義に基づく農村部の貧困率は半分になった。対米関係が改善したおかげで米国との貿易額は4倍に膨らみ、01年に世界貿易機関(WTO)への加盟を果たすこともできた。

だが、それには代償があった。江沢民氏が国家主席を引退するまでに、中国は痛みを感じるほどの格差社会になった。GDP成長率追求に専念したことで、上海のような沿海部は豊かになった半面、農村部は発展から取り残された。習近平氏と同じように、江沢民氏も汚職一掃を掲げたとはいえ、国家主導の経済システムの枠内で民間セクターを成長させるという構想である限り、汚職の発生は避けられなかった。

習近平氏は「共同富裕」という考えに基づいてより平等な社会を目指す方針を表明した。しかし、世界銀行のデータによると、同氏が権力を掌握して以来、ジニ係数で見た中国の所得格差は米国を上回っている。その対策の一環として、かつて江沢民氏が称揚した資本主義的経営者らへの締め付けが発生。「犠牲者」の中には、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏も含まれる。

江沢民氏が死去した今は、まさに社会が緊張し、政府の厳しい新型コロナウイルスに対する抗議行動が広がっている。国際通貨基金(IMF)によると、今年の成長率も3.2%にとどまる見通しだ。

こうした中で何とか秩序を回復させようとしている中国指導部にとって、天安門事件につながる社会の不満を悪化させたのは、改革派を標榜していた胡耀邦元党総書記の死去だったという事実から逃れることはできない。元指導者の死は厄介な過去を抜け出して前に進むきっかけになり得るのと同時に、現在抱えている問題を改めてあぶり出す機会になってもおかしくない。

●背景となるニュース

*中国の江沢民元国家主席が30日に死去した。15年にわたって政治的に重要な地位を保ち、積極的な経済改革を指導。同氏が国家指導者の座にあった間、国内総生産(GDP)は平均で年10%の成長を記録した。

*江沢民氏は1989年6月の天安門事件直後に中国共産党総書記に選出され、02年に発表した「3つの代表」と呼ばれる思想はその後憲法の序文にも盛り込まれた。これは中国共産党が「先進的な社会生産力」「先進的な文化」「圧倒的多数の人民の根本的利益」を代表しなければならないという内容だ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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