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焦点:トランプ氏娘婿の親族事業、中国業者の法令遵守に疑問符

[上海 12日 ロイター] - トランプ米大統領の娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏の親族企業が、米不動産開発プロジェクトに中国人投資家を勧誘する際、同氏の名前を利用したことについて謝罪するなか、中国の移民仲介業者は、自らがこのプロジェクトにかかわっていることを大きく宣伝していた。

 5月12日、トランプ米大統領の娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏の親族企業が、同氏の名前を投資勧誘の際に利用したことを謝罪するなか、中国の移民仲介業者、僑外集団は、自らがこのプロジェクトにかかわっていることを大きく宣伝していた。写真は10日、北京に貼られた僑外集団のポスたの前を歩く男性(2017年 ロイター/Jason Lee)

不動産会社クシュナー・カンパニーズの開発プロジェクト「ワン・ジャーナル・スクエア」の販売キャンペーンを担当したのは、北京に本拠を置く移民仲介業者の僑外集団だ。同社にとってこのキャンペーンは、米国政界とのコネを強調する好機だった。

キャンペーン開始後まもなく、同社はこのイベントが「投資ブーム」を引き起こしているとする写真をソーシャルメディアに投稿した。

僑外集団のような移民仲介業者は、米国で論議の的となっている投資家向けビザ(査証)制度「EB-5」を活用した米デベロッパーの資金集めを支援することで、高リターンのビジネスを構築してきた。

EB-5制度は、対象となるプロジェクトに50万ドル(約5670万円)以上投資することを条件に、外国人(大半は中国人)に米国の永住権を与える制度である。

この制度の規定では、販売側が永住権取得を投資家に約束することや、また投資収益を保証することは認められていない。だが、僑外集団がウェブサイトに掲載した販促資料をロイターが調査したところ、同社がこれらの規定に違反していることが分かった。僑外集団は、文書による質問への回答も、本記事へのコメントも拒否している。

ニュージャージー州の「ワン・ジャーナル・スクエア」プロジェクトに関してクシュナー・カンパニーズらと提携しているUSイミグレーションファンド(USIF)は、自社と僑外集団はともに「あらゆる法律を完全に遵守していると確信している」と述べている。

EB-5制度は、度重なる不正や濫用を指摘する政治家からの批判に晒されている。本来は失業率の高い地域に雇用をもたらすことを意図した制度だったにもかかわらず、富裕な地域におけるプロジェクトへの投資勧誘に利用される例が多いという問題も指摘されている。

また、仲介業者は、EB-5制度を利用するクライアント1人につき10万ドル以上を稼ぐこともある、と同制度に詳しい弁護士らは指摘する。だが、取引1件あたり仲介業者がどれだけ稼いでいるかは、通常、投資家側に知らされることはない。

こうした懸念にもかかわらず、米議会は先週、EB-5制度を9月30日まで延長することを決定した。

クシュナー・カンパニーズは、ニコール・クシュナー・マイヤー氏が先週「ワン・ジャーナル・スクエア」を宣伝する際に、実兄であるジャレド大統領上級顧問の名前を出したことについて謝罪した。

名前の言及は、投資を検討している人々に対し、単に彼がこのプロジェクトに関わっていないことを明確にするためだった、と同社は強調している。同社の広報担当者は11日、週末に中国国内で予定されていた販売説明会の中止を明らかにした。

プロジェクトの失敗やビザ発給が危うくなるような政策変更を懸念する投資家に対し、僑外集団などの中国の移民仲介業者は、米国の政治家と築いた人脈を強調することで、EB-5の対象となるプロジェクトの成功を信じさせようとしている、と業界幹部は語る。

スライドショー ( 2枚の画像 )

ロイターが閲覧した宣伝メッセージのなかで、僑外集団は、マイヤー氏とトランプ大統領の関係に言及した上で、彼女を販売説明会の「尊敬すべき大物ゲスト」と呼んでいる。

僑外集団は1月、自社のウェブサイト上で、創業社長であるDing Ying氏がトランプ大統領の就任式に参列し、大統領とその家族、閣僚に面会したと述べている。「Ding氏が再び大統領就任式への招待を受けたという事実は、米国議会が僑外集団を重視し、承認していることの表われだ」と同社のウェブサイトには書かれている。

トランプ大統領とDing Ying氏が実際に会ったことがあるのか、ホワイトハウスにコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。ペンス副大統領の広報官は、副大統領としては、何らかの会合が行われたという記憶はなく、またその記録も残っていないと述べた。

また、トランプ氏の就任準備委員会への献金者をチェック、2016年の大統領候補に対するすべての献金を検証したが、Ding氏、僑外集団、又は米国で登記された子会社による献金は確認できなかった。

<業界最大手>

1999年に設立された僑外集団は移民仲介業者としては最大手の1つであり、同社ウェブサイトによれば、カナダ、英国、ドイツなど15カ国への移住について、中国人にアドバイスを提供している。

EB-5制度により発給されるビザは年間1万件近くに達するが、そのうち約8割は中国人で占められている。

同社はEB-5制度の対象となるプロジェクトを積極的に売り込んでおり、同社ウェブサイトによれば、HFZキャピタルグループやウィトコフグループなどのデベロッパーの資金調達に貢献。ウィトコフはコメントを拒否し、HFZにはコメントを要請に回答がなかった。

クシュナー・カンパニーズがニュージャージー州ジャージーシティで手がけた居住用ビル「トランプ・ベイ・ストリート」の資金調達にも協力した、と僑外集団は述べている。トランプ・オーガナイゼーションが名称の使用を許可した物件だ。

「ワン・ジャーナル・スクエア」プロジェクトでは、デベロッパーがEB-5制度を利用して、投資家から開発資金の15.4%に相当する1億5000万ドルを調達しようとしている。

米証券取引委員会(SEC)は、EB-5制度の対象となる投資商品の一部は証券に相当すると考えており、こうした投資商品を販売する企業や個人は米国の証券法を遵守しなければならない。

その規定では、投資家に対する欺瞞行為、虚偽の主張、重要情報の不開示が禁止されている。だが、証券分野に強い弁護士によれば、国外で外国人投資家を相手に投資募集が行われる場合には、SECが詐欺行為を立件しようとしても限界があるという。

またEB-5制度は、移民に関する規則も遵守しなければならない。EB-5制度に関する米国市民権・移民業務局(USCIS)のガイドラインでは、投資家は自らの投資についてリスクを負わなければならず、また永住権の発給は保障されないと定められている。

だが、僑外集団が自社のウェブサイトやソーシャルメディア上で展開した販促資料では、幾度か永住権取得の保障又は「安心」について、あるいはEB-5制度の対象プロジェクトに関する投資の安全性についての言及があった。

ロイターは、「ワン・ジャーナル・スクエア」プロジェクトに関するウェブサイト上の宣伝文句のなかで、僑外集団がそのような保障を提示している例を6つ発見し、それ以前のプロジェクトにおいても同様の例を複数見つけた。

中国のソーシャルメディア「WeChat」に5日投稿された、同プロジェクト関連の上海イベント広告で、同社は「本当の意味で恒久的な永住権と投資元本の安全性を保障するものであり、これまで扱った87件のプロジェクトの中でも最高の1つと考えている」と書いている。ロイターが同社にコメントを求めると、この投稿は削除された。

また、同社は自社ウェブサイトにおける先月27日の投稿で、「(このプロジェクトは)投資家の永住権取得と資金を完全に守る」と書いている。この表現、並びに同社ウェブサイト上で同プロジェクトに言及している別の箇所で見られた類似表現について、ロイターが同社に質問したところ、いずれも削除された。

ロイターが取材した複数の専門家は、僑外集団によるこの種の約束についてEB-5制度の規定に違反すると述べている。ただ、こうした表現自体はありふれたものであり、問題の多い同制度の1つの側面にすぎないとして一蹴する見方もある。

SECは文書による質問への回答を拒否している。また広報担当者もコメントを拒んでいる。

USCISは個々の事例についてはコメントできないとしつつ、EB-5制度に関して、問題のある広告や内部告発による情報提供は歓迎すると述べた。「(永住権取得の)条件となる居住期間を通じて、投資にリスクが伴うことは、本制度の基本的な要件だ。この要件を満たしている証拠を提示できない投資家からの申請は却下される」と言う。

フロリダ州ジュピターに本拠を置くUSIFは、「証券法及びすべての準拠法を厳格に遵守することを約束しており」、僑外集団に対しても、やはりこれらの法律を遵守していることを文書で証明するよう求めていると語った。

USIFはロイターの質問に対してメールで回答し、永住権取得や投資の安全性について保障を与えていないと述べている。

僑外集団がクシュナー・カンパニーズや、KABR、USIFと合意した契約条件や料金については情報が開示されていない。

(翻訳:エァクレーレン)

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