[ニューヨーク/シンガポール 24日 ロイター] - 多くの大手資産運用会社が中国資産を敬遠し、「ポスト・コロナ」の株高で得られる収益をあえて見逃しつつある。目先のリターンの妙味よりも、地政学的な懸念が大きいからだ。
香港株の指標となるハンセン指数は1月末までの3カ月間で50%上昇したものの、外国人の資金流入は鈍化。ブローカーの分析結果に基づくと、こうした株高の大部分は、手早く稼ごうとするヘッジファンドの仕掛けが原動力とみられる。
もっと長い目で考える投資家にとっては、米中の競合関係が強まる中で、ウクライナにおける戦争や中国が習近平国家主席の権力基盤のさらなる強化を進めているという要素が、中国投資を考え直す誘因となっている。
何人かの投資家は、台湾海峡で米中が軍事衝突する危険が高まっていると警告する。別の投資家は、ウクライナの戦争で外交関係や貿易面での結びつきが強固となり、中国と西側は互いにますます反対の立場に位置するようになったと説明する。これら全ての材料が、中国に資金を振り向ける上で新たなリスクをもたらしている格好だ。
富裕層や財団などの資産95億ドルを運用するベル・エアー・インベストメント・アドバイザーズのパートナー、ケビン・フィリップ氏は「米国投資家としては、敵対陣営の政府が経済を発展させるのを後押ししているのではないか、と考える必要がある。そのような懸念を持つかもしれないわれわれの投資家にとっては、中国以外に数多くの機会が存在する」と語った。
<資金流入が鈍化>
月次データを見ると、中国株ファンドへの資金流入額は昨年12月に154億ドルと8カ月ぶりの高水準を記録したが、今年1月には43億ドルまで縮小した。
1月は640億元だった株式相互接続制度経由の外国人による中国本土株の買い越し額も、今月は約200億元(約30億ドル)にとどまっている。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは、米国と中東における投資家との会合を踏まえたノートで「長期資金の運用担当者は、中国に新規資金を投じるのを幾分ためらっている」と記し、その理由として米中の地政学的環境の不確実性を挙げた。
中国本土株の代表的指標となる上海総合指数は昨年10月終盤から今年1月終盤までに15%上がっており、投資していれば得られるリターンは大きい。それにもかかわらず投資家が消極的になっている事実が、より根深い問題を提起している。
アビバ・インベスターズのシンガポール駐在ポートフォリオマネジャー、ウィル・マルコム氏は、これは中国資産の構造的な評価が下がる流れの一環なのではないか、との不安が一部から聞こえてきていると指摘した。
マルコム氏のファンドは中国株をオーバーウエートとしており、過去3カ月の値上がりで恩恵を受けてきたが、今はそうしたポジションを縮小しつつある。中国市場のさまざまな分野で少しばかりより選別的な投資をする必要が出てきたからだという。
政府系ファンドや年金基金、財団などの資産運用を手掛けるマン・ニューメリックも、一部の機関投資家が良好な投資環境にあっても中国への資産配分を見直していると明かした。グレッグ・ボンド最高経営責任者(CEO)は「顧客の間で新興国市場を考える際に、中国を含めた地域と中国以外に分ける見方が出てきている」と述べた。
<鍵握る市場心理>
もちろん中国市場に対する外国人の投資意欲がなくなったと言うつもりはない。資産配分を決める人々は、単に様子見をしているだけかもしれない。
シドニーに拠点を置く運用会社・バンエックのシニアアソシエート、アリス・シェン氏は、地政学問題は心配事の1つではあるが、中国経済の重みを無視するのは難しいと主張。「この事態を乗り切るため、われわれは米国預託証券(ADR)や香港上場株(H株)よりも外的ショックを受けにくい中国本土株(A株)を志向している」と話した。
中国の経済データが消費と需要が力強く回復していることを示し始めれば、急速な資金流入が起きてもおかしくない。ただ、足元までの海外の大手投資家の態度を見る限り、資金フローに根本的な変化が生まれるには、市場心理自体が大きく改善する必要があるとみられている。
(Carolina Mandl記者、Davide Barbuscia記者、Tom Westbrook記者)
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